投名状(ウォーロード/男たちの誓い)

《投名状》
李連杰ジェット・リー)、劉徳華アンディ・ラウ)、金城武、徐静蕾(シュウ・ジンレイ) 
陳可辛(ピーター・チャン):監督


清朝末期の乱世、将軍だった男(李連杰)は、自らの兵を皆殺しにされながら死んだふりをして生き延びた。抜け殻となった男は道で行き倒れたところを女(徐静蕾)に助けられ一夜をともにした。翌朝男が目覚めると女は姿を消していた。命を吹き返した男は、ある村で盗賊が靴ほしさに彼に襲いかかるのを見事に打ち負かした。盗賊を率いていた者(金城武)は、男の腕を見込んで盗賊の頭(劉徳華)に引き合わせた。
盗賊団は、金子と食料をもとめて朝廷の物資を狙い、見事に奪い取って根城へ戻った。そこで男が見たのは、命を吹き替えさせてくれた女だった。そして彼女は頭のものだった。金子と食料を手に入れて意気揚々としたのもつかも間、朝廷の軍が根城を襲い、食料を取り返していき、彼らは餓えるしか道はなかった。それを見た男は、盗賊から足を洗い従軍すれば食料も貰えるとみなを解き伏し、3人はともに乱世を生き抜くために契り、死をともにすることを誓うのだった。


金城武のナレーションで話しは進み、人海戦術の戦闘場面が延々と続く。リアリティを求めて埃がまい、顔も甲冑も泥だらけに薄汚れている。古装片というと、基本的にはどんなに戦闘になろうが顔が薄汚れることがないのが、いままでの香港映画だとすれば、顔をうす黒く埃だらけにして髪もざんばらでリアリティを出したのは、さすが陳可辛というべきか。「100%香港映画だ」(「香港電影」vol2)とはいうものの、その根底には陳可辛が本来持っている西洋映画志向がはっきりと見て取れる。それがまた映画全体を非常にスマートに見せている所以にもなっているように思う。


李連杰劉徳華金城武に非常に的確に役を当てている。当初、配役が発表になった時、この映画の元になった映画《刺馬》の配役と照らし合わせると、いまひとつ納得できないものがあった。特に《刺馬》では狄龍(ティ・ロン)が演じた野心に満ちた憎々しい役を李連杰が果たして出来るのかということ。しかし見終わってそれが杞憂でしかなかったことがはっきりとした。とにかく素晴らしい。《霍元甲(SPIRIT)》を経て李連杰は一回りも二回りも演技者として成長していた。これまでの映画では自分の声で演じたのは3作品(《英雄》《霍元甲》《投名状》)しかないという李連杰だが、台詞の表情もまったく遜色がなかった。来年、香港電影金像奨で《色・戒》のノミネートがないとすれば、(いまのところは)李連杰が最佳男主角だと断言したい。


金城武もこれまでのイメージを一新するような出来き。《刺馬》で姜大衛が演じたのは冷静に状況を見ている役だが、2人の兄を持つ”弟”としての感情が肉付けされ、苦悩しながらも兄の命令に従おうとする姿がより人間くさくなっている。さらにあくまでも「投名状」に従うのだという悲しいばかりの決断に向かっていくクライマックスがいい。劉徳華は、3人の中ではもっとも想像できる範囲の演技だが、《刺馬》ではどちらかというと単細胞だった陳観泰の役を、有言実行型の愚直な男に変えたことで、劉徳華が本来持っている資質に相応しい役になっていた。劉徳華の声は一部吹き替えられているように思う。唯一、弱いのが徐静蕾。《刺馬》でも井莉の演じた役は物語のキーであるが受動的な役だった。当初、陳可辛は女優がキーだと言っていたのだが、いまひとつその役割が足りないように感じた。


しかし《刺馬》から《投名状》へ、時代とキャラクターを変えて、これだけつくりこんでいった力は素晴らしい。2007.12.12&25@旺角百老匯


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