十萬火急(ファイヤーライン)

《十萬火急》劉青雲ラウ・チンワン)、方中信(アレックス・フォン)、李若彤(カルメン・リー)、黄卓菱/黄卓玲(ルビー・リン)、黄浩然(レイモンド・ウォン)、劉松仁(ダミアン・ラウ)、鄧梓峰(ダン・チーフォン)、陳啓泰(ケネス・チャン)、姚瑩瑩(アイリーン・イウ) 
杜琪峰(ジョニー・トー):監督 1997年 邵氏 DVD


慈雲山消防署は他所からは「疫病神」と呼ばれている出来の悪い部署。署員には、人命救助が大切と考えているものの、規則よりも感を信じ試験でもその考えをすてられず昇進できない老聰(ボス)(劉青雲)、いまは夫(鄧梓峰)よりも仕事が大切だと思っているマダム(黄卓菱)、新人署員(黄浩然)らがいる。そこに新任の署長に張文傑(方中信)が赴任してくる。


工事現場での救助、交通事故現場へ出動、乳幼児の救出、酒に酔って高いビルの危険な場所に行ってしまった者の救助と、消防隊員の活躍を紹介しながら、登場人物それぞれのエピソードが挿入されていく。老聰と女医(李若彤)の恋、マダムの妊娠、新人君と父親、署長と分かれた妻と残された娘、これらをスパイスにしながら、物語は繊維工場の大火事へと進んで行く。現場に侵入した消防隊員は、他署の隊員を救い、取り残された人を救出していくが、火の手は迫り、出口は塞がれ、工場から脱出できない。唯一の望みの地下に逃れた彼らだが・・・・。


監督の杜琪峰は容赦なく俳優を火の中へ送り込んでいる(メイキングでは俳優達が進んで自ら演じたと話している)。杜琪峰、リアルを求めるあまり、《黒社会以和為貴》では安志杰(アンディ・オン)を袋詰めにして本当に夜の海に落としているし、新作《文雀》では任達華ほか文雀たちは本物のカミソリの刃を口に含んで演技させられている。偽物でもいいのにと思うのだが、そうはいかないらしい。《十萬火急》は香港版《バックドラフト》といわれているが、こちらの火は本物だ。スローを多様して生き物のような火の凄まじさ、火に翻弄されながらも冷静な判断であきらめず出口に向かって進んで行く消防隊員たちの勇気をリアルに描き出す。オリジナルポスターに「我們需要真的英雄」とあるように、真の英雄とは人々を救う彼らなのだと伝えていく。


出演は主役の劉青雲はいわずもがな、この後も杜琪峰映画で大活躍、方中信は杜琪峰とはこの前年1996年に《天若有情3 烽火佳人(アンディ・ラウ 戦火の絆)》を撮っている。方中信は杜琪峰にかなりしぼられたらしいが(手を大袈裟に動かして演技することを怒られたらしい)、インタビューのごとに杜琪峰に感謝しているのは、この年あたりから彼は演技について考えるようになったからだと思われる。黄卓玲はこのときはまだ黄卓菱(発音は黄卓玲と同じ)と名乗っているが、この後も《非常突然》《再見阿郎》《PTU》などで杜琪峰映画に関わっていく。李若彤×劉青雲×杜琪峰は《無味神探》(1995年)(id:hkcl:20071017)で組んでいる。李若[丹彡]は同じ年には杜琪峰プロデュースの《最後判決》《一個字頭的誕生》も撮っており、このころの杜琪峰お気に入り。黄浩然はこれがデビュー作品。その他はみなテレビの俳優なのもいまに通じるものがある(火事の現場をまとめる偉いさんに劉松仁、女医の彼氏に陳啓泰方中信の元妻に姚瑩瑩、マダムの夫に鄧梓峰)。新人君の父は《重慶森林(恋する惑星)》で金城武の父役をしている陳萬雷。林雪がちらっと登場するが、エンドロールでは事務になっている。


初めてこの映画を見たのはVCDだった。主役の劉青雲ではなく、方中信目当てで見たわけだが、あまり鮮明ではない画面、火の中ではみなヘルメットを被っているため、表情が分かるのはその目だけだ。それゆえなおさら、緊張して見たのを覚えている。大スクリーンではさぞ迫力満点だったことだろう(東京で見る人がうらやましいかぎり)。しかし、私服の阿Sirがまったくいけてなくて苦笑したのもよく覚えている。


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