復仇者之死(復讐の絆 Revenge: A Love Story)

《復仇者之死》麥浚龍(ジュノ・マック)、蒼井そら劉永、銭小豪(チン・シウホウ)、何華超(トニー・ホー) 
黄精甫(ウォン・チェンポー/ウォン・ジンポー):監督


詳しい物語は書かないほうがいいような気がするので省略。何超儀(ジョシー・ホー)が出資し、麥浚龍がプロデュース・脚本(共同脚本)・主演。内容は復讐譚だが、英語タイトルに「Revenge: A Love Story」とあるように、麥浚龍扮するしがない田舎の士多の饅頭売り陳杰と、蒼井そら扮するおばあちゃんと暮らす少しばかり智恵のおくれた張頴の愛の物語でもある。III級。


監督の黄精甫は《福伯》《江湖(ベルベット・レイン)》(id:hkcl:20040501)《阿嫂(姐御〜ANEGO〜)》(id:hkcl:20050806)に続いて長編3作目。《阿嫂》の評判と興行成績が思わしくなく、その後、監督は辞めたとも伝えられており、前作からは5年が経っている。今回は、麥浚龍という素晴らしい理解者を得て、これまでの作品のよいところを引き出してもらった感じで、破綻もなく、けれん味も抑制が効いていてよい。


この映画は麥浚龍の嗜好やかっこいい事に対する考え方が見えて面白い。雑誌などで見る麥浚龍は坊主頭で背は高くなく痩せていて見かけは貧相だが、着ているものはシンプルで独自のスタイルを持っている。自分の外見をよく分かっている人だ。この映画でも主人公は田舎(元朗)で饅頭蒸かして売っているだけ。乗り物は自転車。そんな男が見つけた愛する者は、他者に蹂躙される。そして「愛」と「復讐」のため凶悪な犯罪を犯していく。麥浚龍以外の男性陣の人選もセンスがいい。絶対に顔だけで人選しているだろう(笑)。銭小豪の声は吹き替えか? そして衣装。麥浚龍は特に男性陣の衣装に気を遣ったはず。


さらに麥浚龍の嗜好は画面とロケ地にも現れている。香港映画なのに香港らしい風景はまったく映らない。乗り物は最初に小巴が映るだけで、あとはほぼ自転車。高層ビルはまったく映らず、人混みもない。饅頭を売ってる店を遠目に写したカットは一瞬、日本のどこかの田舎の路地を思わせたり、韓国映画《マザー》の冒頭シーンのように芦原が広がっていたり、山間の草原をイメージしたような場所であったりと、香港映画では見られない風景を多く使っている。このあたり日本映画や韓国映画の匂いを強く感じ、麥浚龍の嗜好が多いにはたらいているのだろうと想像している。
そしてこの映画の画面のセンスのよさは、麥浚龍自身のファッションセンスと同じで、残忍な場面でも過剰にならないところ、ほどよい抑制の効いているところだと思う。なお、電影節上映版はディレクターズカットで、一般上映では編集される可能性もあるとのこと。
2010.10.22@Place ifc(香港亞洲電影節)


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2度目の感想は(id:hkcl:20101207)に。