《牡丹亭》

《牡丹亭》出演:坂東玉三郎江蘇省蘇州崑劇院


今回は《遊園》《驚夢・堆花》《写真》《離魂》《叫画》《幽媾》《回生》を演じた。
香港映画は見ていたものの、中国の舞台芸術については疎く、京劇や粤劇、そのほかに地方劇があることは漠然と知っていたが、崑劇を意識したのは、2000年に楊凡(ヨン・ファン)監督が撮った《遊園驚夢》だったように思う。その後、香港で崑曲を習っている人の「崑曲クラスの発表会」というのを見たことがあったが、正式な崑劇を舞台で見るのは初めて。今回出演の江蘇省蘇州崑劇院もかつて香港で公演を行っていたが、機会が無く見られなかった。


崑劇は崑曲とも言われるように歌が特徴的である。言葉は蘇州の方言。
数年習らっただけで完璧にこなせるほど崑劇は簡単なものではないだろうし、歌舞伎の役者が崑劇を演じるという奇妙さもあり、幕が上がってすぐは、少々懐疑的に見ていた。蘇州の方言も、独特の発声も、他の役者と比べれば明らかに違いが分かる。それでも、徐々に玉三郎の杜麗娘に引き込まれていく。玉三郎の杜麗娘が舞台をどんどん占領していき、独自の世界が作られていく。特に見せ場である《離魂》の場面では感情の高まりが舞台から客席に溢れ出て、会場を満たし、ひたひたと観客の心の中にしみこんでくる。その過程を見られたことに多いに感動した。


玉三郎が崑劇に取り組んだのは2006年からで、2007年6月に蘇州で正式な稽古を開始したという。異なる言語、異なる発声方法、異なる仕草、これらを学び演じてみせることはどれほど大変なことであったろうと思う。玉三郎、現在60歳だそうだから、56歳から新しい事を始めたことになる。それも敬服に値する。2010.11.20@葵青劇院