毒丈夫

《毒丈夫》
呉楚帆、紫羅蓮、李清、夏萍 
呉回:監督 1959年 モノクロ 粤語


呉楚帆と紫羅蓮の夫婦には娘がおり、裕福な生活を送っていたが、夫はたびたび夜遅く帰ってくるようになる。妻が夫を問いただすと、夫は「実は破産しており、家も抵当に入っている、しばらくしたら家も差し押さえられる」と話す。さらにもう方法はなく、離婚すれば、これ以上苦しむことはないと冷たく言い放つ。妻はどんな苦労も2人で乗り越えていこうと夫に話す。しかし夫は、密かに資産家の令嬢(夏萍)とつきあっており、令嬢の父の資金を当てにしていた。
夫の会社は取引先から2週間の期限を切られ、さらに令嬢の妊娠が父に知れ、こちらも同じく2週間の期限を切られていた。切羽詰まった夫は、マカオ出張から密かに香港に戻り、深夜に妻を海辺のホテルに呼び出し、ボートの上で妻の首を絞め、海へ葬った。素知らぬ顔で妻が失踪したと警察に届けた。
妻の死を早く警察に認めさせ、令嬢との婚約と資金を手に入れたい夫は、再び海辺へ向かい妻のスカーフを拾い、令嬢に妻はすでに亡くなっているのだと言い聞かす。ところが友人の新聞記者(李清)は、失踪に不審を抱いていく。
そしてこのころ夫の家には妻の幽霊が現れるようになっていた。夫は警察からの死体確認を求められると、似てもいない女性を妻だといい、妻の死亡確認後たった2日後には、令嬢との婚約を新聞に発表、令嬢の父からの資金援助を得ようとしていた。婚約発表の日、突然娘の行くへが分からなくなり、しばらくて娘から母と一緒に海辺のホテルにいるという電話がかかってくる。夫は慌てて従妹や夫の姉らと出かけていくのだった・・・。


解説にはアメリカ映画《陽のあたる場所》(1951年)的物語とかかれている。金のために妻を殺害しようとする悲しい男の物語。呉楚帆の冷血ぶりが出色。物語の作り、海辺のホテルやラストシーンの波が岩を洗う断崖といい、洋風なものを感じる。
呉楚帆は善も悪も、貧乏人も金持ちも演じられ、惨めななりもスーツも似合う。特に高慢な悪を演じた時に最も迫力がある。脚本が時に大仰ではあるが、その大仰さを思う存分表現して、鬼気迫るものがある。体格のよさもあって、ふと周潤發(チョウ・ユンファ)を思い浮かべることもあるが、残念ながら周潤發の演技も呉楚帆には及ばない(周潤發は悪役を演じることはない。ただし周潤發の笑顔は呉楚帆に勝る)。演技の幅ということでいえば、梁家輝が近いが、骨太さが少したりない。そんなわけで、今の香港映画界には似たような俳優は見つけられない。
2011.4.23@香港電影資料館「人人為我,我為人人:中聯電影」


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