龍門客棧(残酷ドラゴン 血斗!竜門の宿)

《龍門客棧》
上官靈鳳、石雋、白鷹、苗天 
胡金銓:監督 1967年 聯邦


明朝中ごろの話。宦官の曹吉祥は、于謙が軍の権力を手中にするのを恐れ彼を陥れて亡き者とした。于謙の子供たち3人は最果ての地・龍門へ送られたが、東廠の太監・曹少欽(白鷹)は、子供たちの報復を恐れこれも殺害してしまおうと考えるが、于謙の腹心の朱驥(薛漢)に助けられる。曹少欽はさらに東廠の一番目・皮紹棠と二番目・毛宗憲を龍門の宿屋(龍門客棧)に先回りさせることにした。また、これを知った義士・蕭少鎡(石雋)もまた龍門へ。さらには男装の麗人・朱輝(上官靈鳳)ら兄妹も龍門に駆けつけるのだった。


客棧とは宿屋の事で、武侠映画では1階に広間があり、ここにはテーブルや椅子がでており食事ができ、2階に広間を囲むように部屋があり、両者は階段で結ばれている。この映画では客棧の中だけでなく、中と外の攻防、中から外へ、外から中へとバラエティに富んだ戦いが繰り広げられる。また京劇風なリズムと人々の動きが一体となって一種の様式美を作り出しているが、のちの作品ほどはまだ形式的になっておらず、戦いの場面はかなり執拗に繰り広げられる。
この作品で一番目を惹くのは上官靈鳳。背があまり高くない上官靈鳳は男装の麗人というよりは、美少年的な雰囲気を漂わせている。当初、上官靈鳳の役には前作《大醉侠》で人気になった鄭佩佩を予定したが、鄭佩佩は邵氏との契約があり他社での撮影ができず、別の人を探すことになり、2人いた候補のうちの1人が上官靈鳳であったとのこと。若い時の鄭佩佩も大変チャーミングだが、この役はやはり上官靈鳳の美少年っぽさが活きている。
またここに登場する悪役の宦官や錦衣衛のスタイルは胡金銓が創ったもので、後の武侠映画に大きく影響したと言われている。
2012.12.15@香港電影資料館(侠影禪章―話説金銓)


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なお、この感想文を書いていて、ふと思い当たったことがある。杜琪峰監督の《放・逐》で登場するホテルは、1階に広間があり、2階に部屋がならび、その間を階段がつないでいるという、まさしくこの作品で登場する「客棧」にそっくりである。杜琪峰は黒澤明の大ファンであるが、はたして”香港の黒澤”こと胡金銓には思い入れがあったのだろうか。大変に気になる。