捉妖記(モンスター・ハント)

《捉妖記》
白百何、井柏然、曾志偉、呉君如、姜武、鍾漢良、金燕玲、湯唯 許誠毅:監督 2015年 普通話


昔々、人間と妖怪は一緒に暮らしていたが人間が妖怪を山奥に追いやってしまっていた。妖怪の世界は混乱を極め、妖怪王が殺されると、身ごもっていた后は妖怪の夫婦(曾志偉・吳君如)に守られ追っ手を逃れ人間界に紛れ込んだ。とある村・永寧村にやってきた3人は、妖怪退治の天師と妖怪王の跡継ぎを亡き者にしようすると追っ手の妖怪に襲われた。力つきる刹那、后は子供を永寧村の村長・天蔭(井柏然)に託した。お腹に妖怪の子を宿した天蔭は、お金になる妖怪の子をなんとか手にしようとする妖怪退治の天師・小嵐(白百何)とともに村を後にした。


以下ネタバレの可能性あり。
2015年中国で24億元を稼いで興行成績1位(金額には水増しがあると言われてはいるが)だったことはある。当初はどうだろうと思った胡巴(フーバ)の造形も、動いているのを見ていると、ぷよぷよして丸っこくてだんだん可愛く思えた。物語も良くできていて予想外に面白く見た。
監督の許誠毅はこれが初監督作品だが、ハリウッド映画《シュレック》シリーズにキャラクターデザインやアニメーターとして参加しており、「シュレックの父」と呼ばれている。脚本の袁錦麟は、《雙雄》《新警察故事》《寶貝計劃》《保持通話》《風暴》と犯罪ものを多く手がけているが、今回は子供も楽しめるような物語を書いている。コメディ要素も盛り込まれているし、敵対するものが次第に連帯を感じさらには愛情も感じるようになったり、他人の子(妖怪だが)を連れ旅をしていくうちに本物の親子のような感情が生まれ、最後にはほろりとさせるなど、物語のあちこちに香港映画のスパイスを感じるし、それらのバランスがとてもよく、見ていてすんなりと物語を受け入れられた。ちなみに物語は『聊齋志異』の「宅妖」を元にしているとの事だが、妖怪たちの造形も物語も泥臭くなく、洗練されていたのは、やはりハリウッドで仕事をしてきた監督だからだろう。
キャスティングも良かった。白百何を初めて見たのは《失戀33天》(2012年)。この時は、なんだか垢抜けない感じでパッとしないと思ったが、3年経って顔がしっかりしてた。時々、嫌みのない”神田うの”に見えたが、いきいきとして可愛かった。井柏然も彼で好かった(当初、柯震東と金燕玲の孫と祖母は台湾組でというつもりがあったかもしれないが)。少しコメディ要素のある姜武は、今まで見た中で一番よかった。悪役の鍾漢良もぬめっとしていて、ご多分に漏れず悪役は非常に強いというわかりやすさ。さらに曾志偉と呉君如も妥当。ちょっと登場する湯唯も印象に残る。
ストーリーで面白いと思ったのは、妖怪の子供を託される天蔭は男性なのに妊娠(お腹が大きくなる)するところだ。妊娠といってもいったい何処に子供を宿して何処から生まれるのか(生まれるところは見てのお楽しみ)考えると可笑しい。妖怪の子だから、女性ではなく男性が妊娠するのかもしれないなどと思いながら見ていた。生まれた妖怪の子と生みの母(いや父か)と、妖怪の子で金儲けしようと考える妖怪ハンター(天師)・小嵐の3人が疑似家族となって、妖怪の子を亡き者とする輩を倒していくのだが、生みの母(父)は、登場してきたところで、村人たちから繕い物を押しつけられたり、商売である食べ物屋で料理を作っていたりと女性的役割を与えられているのに対して、小嵐は、武術の腕もたち妖怪ハンターとして稼いでいるという男性的役割を担っていて、このカップルは最初から男女の役割が逆転しているのも興味深い。
香港でも中国大陸でも、ディズニーものやドラえもんなどアメリカや日本の映画は上映されているが、大人も子供も見て面白いという華語(中国語)映画はなかなか作られていないように思う。かつて徐克が自身の製作した《倩女幽魂(チャイニーズ・ゴースト・ストーリー)》をアニメ化した《小倩(チャイニーズ・ゴースト・ストーリー スーシン)》(1997年・香港)を作ったり、CGと俳優を合成した《虫不知(バグ・ミー・テンダー 恋と友情の物語)(2005年・香港)なんていうのも作っているし、漫画《風雲》からアニメ《風雲決》(2008年・中国大陸)が出来たりもしたが、子供も楽しめるとは思えないし、クオリティもまだまだだった。もしかしたら、子供も大人も鑑賞出来き、クオリティも高い華語映画は、初めて作られたのかもしれない。そういう意味でもこの映画は画期的だし、これからの可能性も感じられた作品だった。シネマートで1日1回の上映はもったいないかぎり。
2016.08.09@Cinemart新宿
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