九龍皇帝

「九龍皇帝」という名を聞いたことがあるだろうか? 本名を曾[火土]財という。広東の生まれで、16歳の時香港で出てくる。ある時、田舎で家系図を見て、香港のほとんどの土地が彼の家のもので、英国政府に勝手に使われているのに何の補償もされていないと気付いた。その時以来、自分は「九龍皇帝」だと名乗り、香港政府への不満を香港の街のあちこちに書き殴っていった。
当初は当然、頭が可笑しいと言われていたわけですが、マスコミが彼を取り上げたり、彼の書くモノは香港の風景を形作っていると、文化人が彼を評したことで、彼の書くものは一種の芸術と思われている。書など学んだ事のない人だが、非常に特徴のある角張った不思議な文字を書く。ココに写真などあります。映画《半枝煙(わすれな草)》でアルツハイマーの進行した曾志偉が、筆を持って街頭で字を書く姿は、彼を模したものです。
現在83歳の曾[火土]財、今は足が不自由になって外に出て書くことは出来なくなってしまったのと、政府が彼の書いたものを落書きとみなして消しているので、街で彼の書いたものに出会うことは無くなっている。そういえば、かつては見た記憶がある。いまは養老院に入っていて、机に向かって、毎日紙に文字を書いているそうだ。
その彼の「書」が今日、香港のサザビーで競売に出された。競売にかかったのは、板に書かれた彼の「書」と路上の電気の箱(路上のところどころにある高さ1mぐらいの箱)に書かれていた彼の「書」の写真(有名なカメラマンが撮ったもの)がセットになっているもの。これには書道界から、彼の書いたものは「書ではない」とクレームが付いたらしいのだが、現代芸術ということでの競売だった模様。
競売は1万5千ドルから始まって、当初の予想された2万ドルを遙かに超えて、5万5千ドルで落札された。買ったのは康さんという女性。
5万5千ドルは、彼に直接お金が入って政府が彼への援助をうち切るのを恐れて、半分を養老院で管理して彼の為に使い、もう半分は来年に予定している展覧会の費用にあてる予定だとか。by 2004.10.31「明報」即時ニュース他より