粤・歸・縁

監督(左)と主演の蒋祖曼(右)蒋祖曼、陳國安 
廖劍清:監督


粤劇の俳優だった父は、いまは引退し萍洲に住み、粤劇教室を開いている。娘の暁嵐は、香港へ出て仕事をしている。父娘はいがみ合っているわけではないが、心を通いあわせられないでいる。実は母と父は粤劇が原因で喧嘩、分かれていた。娘は妊娠し、1人で子供を産もうと、島にいる父の元へ帰ってくる。島で子供を産んだ娘は、娘が大きくなると、再び島を出て働くという。
ある日、父の昔の仲間がたずねてきて、父に舞台に上がらないかと言ってくる。説得された父は、再び舞台に上がろうとするが、途中でけがしてしまう。娘は父の舞台への情熱を知り、自分が代わりに舞台にあがろうとする。


カメラが静かに丁寧に父娘の感情を追い掛けて行くことで、父と娘のわだかまりが取れ、粤劇が受け継がれて行く様子を大袈裟でなく描き出す。カメラはけして走らず、気を衒うことなく、ゆっくりと長いショットでしっかりと2人の心を捉えていく。カメラの動く速度と感情の変化の速度が噛み合い、話に厚みが生まれる。台詞は多くなく、空間にはいろいろな感情が積み重なって行く。DV撮りだが、それが気にならなくなるほど。
主演の蒋祖曼は、9か月、粤劇を習ってから撮影に臨んだそうだ。多少クールでかたくなな娘を的確に演じていて、非常よかった。粤劇と父娘という題材もいい。父と息子、母と娘、母と息子では、感情をぶつけあってしまうだろうが、父と娘の関係は微妙だ。意見はいいたいが、娘を傷つけたくないし、自分の思いを押し付けることも出来ない。娘の決心を支えてやろうとするが、娘はかたくなに父の手を借りたくないと思う。全編比較的ロングで人物を観察するように撮影することで、そんな2人の感情がスクリーンからひしひしと伝わってくると同時に、映画がリアルになっていく。
上映後のティーチインで、一番好きなシーンはと観客から聞かれた監督は「娘が妊娠していると父に話す場面」と答えていた。この場面、告白する娘もいいが、それを聞いた父親の反応がとてもいい。監督はこの作品が初めての長篇だそうだ。このあと、どんな作品を撮るのか楽しみ。
2006.10.6@「香港亞洲電影節」百老匯電影中心


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