硫黄島戦書(硫黄島からの手紙)

《硫黄島戦書》渡辺謙二宮和也伊原剛志加瀬亮中村獅童裕木奈江 
クリント・イーストウッド:監督


アメリカがきちっと日本を描いていたこと、日本の俳優を使って日本語の映画を撮ったことにまずは驚く。そしてなによりも映画の視点がすばらしいと思う。当初、日本の監督で撮る計画だったというが、日本人ではこうは撮れないだろう。もっと感傷的になるか、もしくはひどく批判的になるのではないか。イーストウッドはそのどちらでもなく、数人の心を丁寧に描くことで、いったいこの戦争で何か起きたのか語っていく。沈鬱にならず重苦しくなく、それでいて戦争の悲惨さを、表現は可笑しいが、軽々と的確に描いてみせる。さらにこの映画には日米のどちらが悪でどちらが善という思想も登場しない。この中庸ともいうべき映画の視点がすばらしいのだと思う。


俳優も適切だった。たぶん渡辺謙の栗林も、伊原剛志の西も、表現的にはアメリカナイズされ過ぎだろうと思うが、そうであっても最後にはやはり、祖国の為に自ら命を断つという道を選ばざるを得なかったところに、どうしようもない悲しさが浮かび上がってくる。今日7時の回、ほぼ満席。
2007.3.3@百老匯電影中心


硫黄島プロジェクト2作のうち《戦火旗蹟(父親たちの星条旗)》は、香港では今年の1月に公開になっている。時間がなくて見られなかった。
それにしてもこの《硫黄島からの手紙》にしても《ラスト・サムライ》にしても、本来日本が撮らなくてはいけない映画をアメリカに撮られてしまったことについて、日本の映画関係者はどう思っているんだろうか? アメリカは自国の映画を配給するだけでは飽き足らず、日本映画も撮ろうとしている。侵略だと思う(笑)。抵抗しなくていいのか?


■□07年に見た映画一覧□■