阿飛

《阿飛》柯有倫(アラン・コー)、楊愛瑾(ミキ・ヨン)、呉浩康(ディープ・ン)、浦蒲、高捷(ジャック・カオ),呉廷燁(ン・ティンイップ)、雪梨 
葉偉民(イップ・ワイマン):監督 DVD


若者が世間から逃げるために身を隠す場所「横街」にやってきた4人の若者の物語。ヤクザものに騙された母の復讐の機会を探る阿飛(柯有倫)、阿飛を見守る孤独な少女PS(浦蒲)、記憶を無くしおぼろげに覚えている場所を探すNana(楊愛瑾)、Nanaを横街へ導く阿堅(呉浩康)。


阿飛を演じる柯有倫は、故・柯受良(ブラッキー・コー)の息子で歌手。雰囲気はあるがちっともハンサムではない(広東語は吹き替えか?)。目新しさを狙ってのキャスティングなのか。楊愛瑾は、勝ち気な役はまあ許せるが、この役は似合わない。さらに呉浩康が好きになれない。というわけで、魅力を感じない映画だった。物語の構造もいまひとつ。


ただとても興味深いのは、このDVDは《三不管》(id:hkcl:20080818)と同時に発売されたのだが、同じようにやはり外部から遮断された場所が舞台だということ。《三不管》では、その場所を「圍城」(城壁で囲まれた街の意味)と言っており、ここから外で出ることの出来ない場所。《阿飛》の「横街」も一度ここへ入って来たものは出て行くことの出来ない場所と設定されているので、2つの映画の舞台は似通っている。また廃墟に近い造形や、秩序のない都市という点も、2つの物語はとてもよく似ている。
「圍城」や「横街」は、避難場所であり、治外法権の場所、つまり別の言葉でいえば「アジール」なのだろう。《三不管》は、「圍城」がアジールである点がはっきりしている。それは「圍城」の外部に病気が蔓延しているという情況でも分かる。しかし《阿飛》は、最初こそ「横街」はアジール的だが、最後まで見ると「横街」の位置づけと存在があやふやになってしまい、アジールとしての存在が浮かび上がってこない。そこが、職人・邱禮濤(ハーマン・ヤウ)と、つめの甘い葉偉民の違いなのかもしれないのだが。
香港は大陸にとってはアジールであると言えるだろう。つまりこれらの物語は香港自身の物語だ。だとしたら、やはり、アジールが少女の妄想で終わる《阿飛》より、2046年(!)に1人の少女がアジールを飛び出て、先の分からない未来に、不安をかかえつつも向かっていく《三不管》の終わり方に、香港人の未来を見たいと思うのだった。


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