意外

《意外》古天樂(ルイス・クー)、任賢齊リッチー・レン)、馮淬帆(スタンリー・フォン)、葉璇(ミッシェル・イエ)、林雪(ラム・シュ)、莫小奇(モニカ・モック) 鄭保瑞(チェン・ポウソイ/ソイ・チェン):監督


(ねたばれはないが、まっさらな気持ちで映画を見たい人は読まないように)女性の運転する車がパンクして道路に立ち往生した。乗用車に乗った男性は、車から降りて女性に声をかけ、早く車をどけるように催促する。そこに反対側からトラックがやってきて、水たまりの水を男性の車にひっかけた、男性はトラックを避けようと車のハンドルを切り道の端に車を寄せた。するとビルに下がっていた垂れ幕が落ちてきて、車のフロントガラスを覆ってしまう。男性は車を降り文句を言いい上を見上げる。その刹那、垂れ幕を留めていた鉄柱がはずれ、ビルの窓ガラスに当たり、割れたガラスが男性の頭に降り注いだ。男性はその場に倒れた・・・。


大脳(古天樂)、女人(葉璇)、肥老(林雪)、阿伯(馮淬帆)は、事故に見せかけて人を殺すプロの殺し屋集団だった。目立たぬ存在と綿密な計画で殺人を実行している。ところがある殺人を実行した雨の夜から、大脳は自分たちの犯行が誰かに知られ、逆に自分たちが事故に見せかけて殺されるのではないかと思うようになっていった。(Tokyo Filmexで上映されるようなので、あまり詳しいストーリーは書かないことにする)


鄭保瑞の作品はどれもずっしと重い。今回も台詞は少なく、最初から不穏で重苦しい雰囲気が漂っている。出演者の誰もが口数が少ない。模型を作ったり、綿密な事前の調査をし、さらに条件が揃わなければ実行しないなど、純粋事故に見せかけるための工夫をしていく様子、逆に自分たちの身分がバレたのではと感じて、相手を尾行し観察していく様は、見るものに緊張を強いて物語が進んで行く。またはっきりとは語られないが、過去のある事故と、その事故から派生したであろう古天樂の心理状態も映画を沈鬱にしていく。派手さはまったくなく、私は面白いと思ったのだが、途中で脱落する人がいるかもしれないぐらい重苦しい。この重さを開放するのがクライマックスになるのだが、決着の付け方が弱いと思う。前半がいいだけに惜しい。杜琪峰(ジョニー・トー)は、犯罪を描いてもウィットがあって軽やかな感じがするが、鄭保瑞はこれまでの作品でも分かるようにとにかくヘビー級。今後も徹頭徹尾ヘビーでいって欲しいと思う。


古天樂は対象を綿密に観察し神経質なほど慎重な男。疑心暗鬼におののきながらも、神経を研ぎすまして、やられる前にやり返せと追いつめられていく姿を好演している。林雪は外売(テイクアウト)を運んだり、自転車で野菜を運んだりと、街のどこにでもいそうなオヤジに扮している。葉璇は《復仇》から(撮り始めたのは《意外》の方が早いかもしれない)杜組。綺麗にお上品に着飾っていると地味な感じがするが、《頭七》のはすっぱな女や《復仇》の髪乱した子だくさん女、《意外》の前髪が垂れて表情のよく見えない女など、アイドル系の女優はいやがるだろう役をこなしていて、これが思いのほかいい。任賢齊は《大件事》《天生一對》《放・逐》で杜組に出演している。今回は髪をなで付けた保険会社社員役で、どちらかというと無表情で、何を考えているのか分からない役。いい人役をふられることが多い任賢齊だが、杜組ではいかにもいい人の役は巡ってこないようだ。馮淬帆は古い香港映画ファンはよく知っている顔だと思う(かなり老けたけど)。07年には羅永昌(ロウ・ウィンチョン)監督《毎當變幻時》で楊千嬅(ミリアム・ヨン)の父親役をやっている。
ちなみに中国語の「意外」は「事故」の意味なので、邦題は《事故》もしくは英語題の《アクシデント》の方が相応しいと思う。2009.9.17@旺角百老匯


■□09年に見た映画一覧□■


《意外》のロケ地についてはココを参照。