十月圍城(孫文の義士団)

《十月圍城》梁家輝(レオン・カーファイ)、王學圻(ワン・シュエチー)、謝霆鋒(ニコラス・ツェ)、甄子丹(ドニー・イェン)、胡軍(フー・ジュン)、任達華(サイモン・ヤム)、曾志偉(エリック・ツァン)、范冰冰(ファン・ピンピン)、黎明(レオン・ライ)、王柏杰、巴特爾、李宇春(クリス・リー)、周韵、張學友(ジャッキー・チョン)、李嘉欣(ミッシャル・リー)、張涵予(チャン・ハンユー) 
陳徳森(テディ・チャン):監督


1906年香港、決起を考える孫文は、日本から香港へ船でやってくることになった。滞在は数時間。その間に中国各地の支持者が香港に送った代表と孫文が会合を持つ。清朝はそれを聞きつけ、刺客を送ってよこした。無事に孫文を会合の場所に送り届け、さらには船に戻すのか。孫文を支持する人たちと刺客の戦いが始まる。
陳少白中國日報社長(梁家輝)は、孫文の支持者。彼の新聞社に出資している商人の李玉堂(王學圻)の息子李重光はちょうど留学から返ったところだ。李重光は陳少白を通して孫文の思想を知り傾倒している。賭博好きの警官(甄子丹)は、金のため、孫文支持者の情報を売っていた。賭博好きに嫌気がさして分かれた妻(范冰冰)はいまは李玉堂の妻となっていた。


史実を借り、架空の人物も加えて娯楽大作映画として好くできている。見る前に考えていたものより娯楽色が強く、特に甄子丹を初めとするアクションシーンにもかなり比重が置かれている。しかしその娯楽性を支えているのが、王學圻と梁家輝の2人の演技で、2人が主演と言っていいだろう。特に王學圻は、出資はするものの、最初は自分が孫文支持に荷担する気はないが、息子の考えと陳少白の失踪を経て、明確に孫文支持に変わっていく様を的確に表現して出色。梁家輝も安定している。さらによいのが、いままでとまったく異なるであろう車夫を演じた謝霆鋒。これまでのかっこいい若者、血気盛んな警官ではなく、純な心だけをもった車夫。何が起こるのか分からないが、主人を信じてついて行く心優しい役を見事に演じている。このところの謝霆鋒は、出る作品ごとにどんどん演技がよくなっていく。次の世代を担うのは彼だと思う。


1900年代の香港・中環は、上海郊外に作られた中環のオープンセットで撮影。これも見事。ただ気になったのは、私が見た旺角百老匯では全体に少し白っぽく深みがなく写っていたため、せっかくオープンセットが生きていないような気がしたことだ。


プロデューサーの陳可辛はこの映画を、津波地震が襲ってくるという映画と同じような災難映画だと言っている。孫文という災難が香港の街にやってくる。その為に多くの犠牲が払われるということだ。なかなか面白いたとえだった。


さて、この映画、プロデューサーの陳可辛が大陸に新たに自らの会社を作って制作している。会社のロゴからも想像出来るのは、やはり彼らが香港に作った映画会社、UFOだろう。この時は低資本でもよい作品を作るという印象だったUFOだが、大陸ではまったくその逆で、大きいことがいいことだという思想に変わっている。陳可辛は、大陸へ打って出るために《如果・愛》《投名状》の2作品で予習をし、そして今回、大陸で会社を興して制作ということになる。
現在中華圏で映画を撮っている香港の監督たちは、香港、台湾、大陸の好みの違いに頭を悩ましていることだろう。香港映画が大陸の通行書を簡単に手に入れるには合作に頼るしかない。ところが合作を始めた頃には、合作にした結果、香港の客はそっぼを向き、大陸でもさしたる興行収入が上げられないという状況だった。昨年あたりからようやく香港映画(合作)が、香港映画臭も残しながら大陸でもそれなりの興行成績を上げられるようになってきている。そして満を持してこの《十月圍城》が公開されたことになった。陳可辛は、香港、台湾、中国という好みの違う地域をすっぽり取り込める孫文という題材にぶつかり、これが(合作の)新たな香港映画の指標になると考えたのではないだろうか。テレビのインタビューで「この映画をこの会社の新たなスタンダードにしたい。制作にしても宣伝にしても、こうやればこうなるというスタンダードに」と話している。そしてこの映画を見ると、陳可辛はもっと先へ行こうとしているのではと思えてならない。目指す先は全アジア、いや全世界なのだろうか。2009.12.17@旺角百老匯


■□09年に見た映画一覧□■