寒夜

《寒夜》白燕、呉楚帆、黄曼梨、李清 
李晨風:監督 1955年 モノクロ 粤語 華聯


山肌にびっしり住宅が建ち並んでいる風景が写る。つぎに水辺に並ぶ住宅が写り、どこかの街を男が一人歩いており、銀行の前までやってくる。すると警報が鳴り敵機の襲来が伝えられる。慌てふためく人を捕まえかまわず訪ねる「妻がまだ帰ってこないんだ」。
男も妻も大學の同級生で、結婚しようと誓うが、戦争で結婚式が出来ず、とりあえず同居、あちこちを転々とし最後には男の実家(重慶)に戻ってきた。その時にはすでに子供が生まれていた。戻った2人を見た母は、知らせもよこさず親戚に披露もしなかったことが気に入らず、子供を連れてきた妻が許せない。何かというと妻に当たり散らし、人とも思わない言動を繰り返した。妻は堪忍袋の尾が切れて家を飛び出していたのだった。本来ならともに教育者になっていただろうに、今妻は銀行に勤め、夫はしがない出版社で校正の仕事をしているが、肺の病に冒されている。一家は妻の収入に頼っており、妻は接待で帰りが遅いこともしばしばだった。男の母にはそれも気に入らない。
家を出た妻は使いをよこし荷物を銀行の宿舎に持ってこさせた。病をおして出社する男だが、妻のことがきがかりでしかたがない。何かと男を気に掛けている出版社の雑用係が銀行に電話をして妻を呼び出してくれた。妻に会い、戻ってくれるように頼むが、妻は拒否する。ある日、酒を飲んだ男を妻が見つけ、家へ連れて帰る。男は妻への思いを吐露、それを聞いた妻は家に戻ることにする。母の態度は少しばかり変わっていた。男の病はいっこうによくならず、しまいには出版社を解雇される。戦争はますます激しくなり、妻のつとめる銀行は蘭州へ移るとう。実は妻に気のある銀行のマネージャーは、妻に一緒に蘭州へ行ってくれないかとくどく。一度は断った妻だが、夫が職を失ったこともあり、家族にいくばくかの一時金をくれるという銀行のマネージャーの言葉を思い出し、「戦争に勝ったら、かならず帰ってくる。戦争に勝てば私たちには希望がある」と、泣く泣く重慶を後にして蘭州へ向かった。自分のふがいなさに涙する男だった。
1945年、日本は無条件降伏。戦争は終わった。勝利に酔いしれる街。男はすっかり弱り切っていた・・・。


本来なら大學を出た2人には明るい未来が待っているはずだが、戦争がすべてを台無しにしてしまっている。体を悪くし何も出来ず自分は無用だと嘆き、ため息をつき、涙するだけの夫。呉楚帆はこのなさけない夫を巧みに演じている。一家が住んでいる住宅は立派ではないが、着ているもの(特のコートが素敵)も上品で、仕事も出来きる魅力的な妻を演じるのは白燕。夫のことは愛しているが、姑の心ない言葉には深く傷ついている。母は古い考えのもち主で、息子や妻の気持ちを理解しようとしないが、物語の最後になってようやく妻と姑は和解する。
巴金の小説の映画化。舞台は重慶。戦争に翻弄される1組の男女を描く悲劇。137分と長いが、丁寧に細やかな心使いをもって男と妻の感情を、まるで柔らかい布を何枚も何枚も重ねるようにして描いていく。また同じ台詞(たとえば「戦争だから」「戦争に勝ったら」という台詞)を繰り返して言わせることで、抜け出せない現実をより強調して観客に印象づけていく。
解説によると監督・李晨風絶頂期の作品。2004年に電影資料館で修復。
2010.7.4@香港電影資料館「修復珍藏」


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