油麻地の老舗が閉店

老實公司朱義盛。油麻地にある84年の歴史を誇る老舗が1軒、9月27日に幕を閉じた。新填地街と衆坊街の角に緑色のひさしを出したその店は、美都餐室の横を通って百老匯電影中心に行ったことのある人なら、すべからく目にしていた店。もろん私も何度となく前を通っていた。しかしちょっと見た限りではいったい何を商っているのか、つい最近まで、いわんやその全貌については、閉店間際まで知らなかった。店の名は「老實公司朱義盛」。


1824年、仏山に朱義盛という人がおり、仏山子路に「朱義盛號」という店を開いた。朱義盛は銅に鍍金を施して貴金属を作った。細工もよく本物か偽物か区別できないほどであった。朱義盛は色褪せない金を売るとうたってはいたが、実は金を購入できない人が贔屓にしている店でもあった。そのため「朱義盛」は「偽物」の代名詞となっていった。後に朱義盛は広州に店を開いた。当時、田舎から多くの人が広州に遊びにやってきており、貴金属を買って帰り妻に贈ったという。そういう人たちは「朱義盛號」を贔屓にしており、大いに儲かったという。


香港の「老實公司朱義盛」は、1926年開業。やはり銅に鍍金した貴金属を販売しており、還暦や喜寿など誕生日のめでたい席で客に渡す記念品の壽桃や、婚礼用の貴金属、刨花油という名のポマードが主な商品。最盛期は80年代。貧しく本物の金を買えない人たちがこの店を贔屓にしており、1日に数百個の壽桃を売っていたという。しかし今は1日に何個売れるか売れないかという状態で、ここ数年は赤字、さらに家賃の高騰で、しかたなく店をたたむ決心をしたという。今後は「生命工場」という非営利組織の協力を得て、インターネットで商品を販売する(現時点ではまだ販売開始されていない)。


たまたま閉店セールスの真っ最中で、店の中に入ろうとする人の長蛇の列に出くわした。さらに店の外のテーブルでは壽桃(1個2ドル)を売っていた。おめでたい桃が2つデザインされた薄っぺらい鍍金の壽桃は、キラキラと安っぽい金色に光ってキッチュ。お金はないが、せめて見た目だけでもという香港庶民の見栄が作らせた商品だが、デザインを少し直せば、チャイナテイストいっぱいな面白い品にとして生き残れそうな予感。記念にと2つほど購入してみた。