雷楚雄電影美術講座

雷楚雄さん。「銀幕上的現代警局《無間道》、《男兒本色》的警局設計」


今回は警察のセットについて。撮影許可が下りない場所は、実際の病院、空港内、そして警察。現在は、一部貸してくれる病院もあるがほとんどは許可がでないようだ。

  • 《重案黐孖Gun(ヒート・ガイズ 傷だらけの男たち)》の時には、油街の使われてない政府施設内を警察内部に作り替えた。かなり傷んでいる建物だったので、内部の柱は木目調のものでくるみ、透明のガラスをあしらって、現代風な感じも入れている。
  • 《男兒本色(インビジブル・ターゲット)》は、美術だけで予算が1300万香港ドルと比較的予算のある映画だった。成龍ジャッキー・チェン)が持っている清水湾のスタジオ内にかなり大きな警察のセットを建てた。どんな機材が入ってもいいように、また激しいアクションをしてもいいように、鉄骨で組んで頑丈につくった。1階部分に秘書的な人の座るスペースもある。ここには自分の助手を座らせ、自分の机だったら何が必要かどのように飾るのかと話して、彼女に任せた。それはモデルルームのように無機質な部屋ではなく、人間味のあるセットにするため。林嘉華(ラム・ガーワー)の部屋は少し重厚に、部屋の中の置物やデスクの上の小物も気を使った。小物は時に、登場人物の性格付けの役割を果たす。しかし心血を注いで作っても、時には映画では映らないこともある。この映画では最後は1300万香港ドルを掛けたセットは爆破されてしまう。
  • 映画最初の部分、セントラルの宝石店前の爆破は、実際の風景と、別の場所に作った店のセットの合成でできている。爆破が必要なため、実際と同じ状況を別の場所につくる必要があった。ロケ地探しに製片(制作)とセントラルを歩いた。ちょうどレインクロフォードが改装中でパネルで覆われていたため、これはいいと思い、レインクロフォード前の道を使おうと思った(詳細なセットは片側だけ作ればいいから)。さらにその前の宝飾店を見つけた。中に入って協力を得ようとしたら、たまたま従業員が、陳木勝(ベニー・チャン)監督の親戚の女性だったため、協力してもらうことができた。ショウケースや店の細部を写真に撮りセットで再現した。
  • 映画の爆破場面、店内から外を見た場面はすでに別の場所につくられたセット(店の前が改装中のレンクロなので、囲いをつくればよく、店の細部を作る必要がない)になっており、爆破で女性(ニコラスの婚約者役)が吹き飛ばされるシーンは、まず女性をワイヤーでつって飛ばす。その後、店前で本当の爆破(この時は人も避難)。この2つの場面を合成して実際の映画の場面になっている。
  • 主役3人の衣装は、ミリタリー調にしている。警官であるというイメージを常に持たせるために、カーキやグレーといった色合いの服を着せた。
  • ニコラスの部屋は、婚約者の品をそのままにしてあるという設定。脚本には婚約者の職業は書かれていなかったが、雷楚雄は婚約者をファッションデザイナーという設定にした。そうすることで彼女が残したものは、デザイン画、布、変わった形のランプ、そして自作のウエディングドレスなど豊富になった。ウエディングドレスは監督もとても気に入っていた。さらに壁にはチベット風の布を下げ、雰囲気を出した。房祖名(ジェイシー・チャン)の部屋は、チェックのソファーが特徴的。これはきっちりしている、規則を守る人というイメージ。さらに祖母と孫の関係を示す暖かみのある色あいにしている。
  • タマール広場で行われていた、移動遊園地内での爆発シーンは、当初、監督は地下の駐車場を考えていた。しかし地下さらに駐車場を爆破場面の撮影に貸してくれるところなどない。雷楚雄は、車から遊園地を見て使えるのではと思い、すぐに遊園地へ行き写真を撮り、ストーリーボードのようなものを書いて、すぐに制作と監督に見せた。同時に許可を取る。消防署の許可がなかなかおりず、撮影1日前にようやく下りた。また遊園地は開園前の午前10時までに撮り終えるという約束だった。
  • 《無間道III(インファナル・アフェア III 終極無間)》は前2作のヒットで予算が潤沢だったため、何かを節約するという必要がなかった。警察内は近未来的な雰囲気な場所を探しており、サイバーポートと科学園が最後の候補になっていたが、最終的にサーバーポートが相応しいということになった。さらに幸いなことに、サイバーポートは出来たばかりで、まだ入居している会社が少なく自由につかえた。そこで2フロアをかり、劉徳華と黎明のオフィスを作った。オフィス内の家具は実際のオフィス家具を用いた。黎明の保安科は、見たことがないのでどのような場所にすればいいのか分からない。そこで香港を監視するという仮定で、モニター画面を4つ置き香港の街を写すようにした。写されている画像は雷楚雄が自らカメラを持っていき街を写した映像をつかっている。いまや警察内にはコンピュータが必要だが、その画像が動かないのは不自然なため、コンピュータに映し出す画像もアートディレクターの仕事。さらに携帯電話の画面なども制作する(もしくは委託して制作してもらう)。
  • 劉徳華アンディ・ラウ)が資料を探しに行くのは粉嶺の元裁判所。資料は箱に入っており積み上がっている。雷楚雄は、たとえば警察内の棚のファイルなどもたとえ表から見えなくても、中身も作って入れておく。これはもしアクションシーンなどの撮影で棚を動かしたり、ファイルを取り出したりしてもいいようにしているから。つまり作ったセットは、監督がどこをどう好きなように使えるよう作っている。したがって、このこの箱も表面だけがでなく、すべてきちっと箱を積み上げている。



あとは《雛菊(デイジー)》のオランダロケの話しでした。