深涌

深涌。
昨年、雑誌で見て行きたいと思っていたのは《早熟》のロケ地でもある深涌という場所。雑誌には、香港には珍しく草地が広がっている場所として紹介されていた。
朝8時、MTR学駅ハイアットリージェンシー沙田側出口に集合。駅を出てすぐ左側に歩いてゆくと、大きくUの字になった道がある。これを道なりに歩き、階段を下り高速道路をくぐって馬料水碼頭まで徒歩、約10分。馬料水碼頭からは船が2本出ているが、今日乗るのは塔門行き(28ドル)。船は8時半出発。乗船客のほとんどが釣り人のようだ。
馬料水碼頭を出た船は、馬鞍山を右に見ながら進み、最初に泊まるのが深涌。ここで釣り客3人と私たちが下船。深涌碼頭からすぐに舗装された道があり、「←深涌」とあるので、左の方へ歩いて行く。道の左側には川が流れているが水が澄んでいて綺麗。目をこらすと蟹がいた。10分も歩かぬうちに視界が開けてくる。ここが深涌の草地。短く刈り込まれ手入れの行き届いた草原が広がり、池がある。草原に入って正面奥に見える建物には人が住んでいるが、その他は空き家。空き家の中の1軒が今回目指す《早熟》で房祖名と薛凱琪が出奔して住む廃屋である。
人の住む家屋の前の池をぐるりと回ると、右にちょうどスキー場のスロープのような丘があり、その隣のこんもりとした木立にあるのが件の廃屋。映画では建物は古ぼけているが、家の前の低いコンクリートの囲いがはっきりと見え、薛凱琪が家の前で洗濯をするシーンもあったが、今回尋ねてみると、家の前の低い囲いは雑草で覆われ、さらに家に向かって蔦状の雑草が生い茂っており、すっかり家の前を塞いでいて、家に近づくことができなくなっていた。隣の廃屋はさらに雑草が覆い被さりもう少しで建物が見えないくらいだ。
この廃屋の左側にある道を上っていくと、一段高くなったところにも小さい草地と2棟住宅があった。空き家ではあるが、こちらは草にも覆われておらず、綺麗に手入れされており、定期的に人が来ているのだろう。
遠くから人の話し声が聞こえてくると思ったら、トレッキングで山の方から走り下りてくる人が3人現れ、「おはよう」と声をかけて、通りぬけていった。この先にもまだ何かあるのかもしれないと、彼らがやってきた方へ少し上がっていくと、右にやはり廃屋。門があるので、よく見ると上には「深涌學校」と書かれていた。先は木がしげった石ころだらけの沢。3人はこの沢を駆け下りてきたのだろう。
これ以上は集落はなさそうだと下へ戻り、綺麗に手入れされた住宅の前の草原を奥に進んでいくと、右にまるでスキー場のようななだらかなスロープがあり、これが先ほどのロケ地の廃屋の横までつながっていた。後で尋ねると、ここは客家の集落で、中国とのボーダーに近い烏蛟騰から3代ほど前にここに越してきたということだった。集落の住宅には建築年代が書かれており、それを見ると現在残っている建物は、1963年から1967年ぐらいに建てられたもののようだ。
村には2世帯が住んでおり、そのうち1つは深涌農荘という名の店で、家の前に椅子をならべていて、麺や飲み物などを出してくれるというので、ここで一休み。壁に深涌が取材された記事やパウチされた写真が数点貼ってあった。よく見ると、色褪せた写真にはこの店の主人と曾志偉や毛舜筠、房祖名が写っていた。
雑誌によると、この店の主人は1997年に移民先からここに戻り、家を手入れして住み始めたとある。家の前には木が植えられていて、その向こうに広がる草地は綺麗に手入れされていて気持ちがいい。空気も綺麗。一時期、ゴルフ場として開発されるという話しもあったようだが、幸いなことに話しはご破算になったようだ。朝早くからここを訪れる人は少なく、午後から人が増えるそうだ。
帰りの船は11時55分ということなので、草地を後にしてゆっくりと碼頭に戻る。碼頭には釣り糸を垂れる人が数人。水が澄んでいて綺麗。海中をよくみると、小魚が群れをなして泳いでいる。けっこうよく釣れるようだ。そうしているうちに今度はマウンテンバイクに乗った中年オヤジたちが碼頭にやってきた。どこから来たのかと問うと大圍からで、西沙路を通って途中から山に入るだけで意外に近く、10時ごろ出発したのだそうだ。このあと深涌に行き、先ほど駆け下りてきた人が通った沢をマウンテンバイクを担いで登っていくのだとか。ちなみにマウンテンバイクは大圍に預けてあるそうだ。
船がやってきた、釣りオヤジとマウンテンバイクオヤジたちに手を振り、いつまでも草地がこのままでありますようにと祈って私たちは馬料水碼頭へ戻った。
写真は、人が住んでいる建物と草原。
肝心のロケ地写真は、左中奥にロケ地がかすかに見えるロケ地の廃屋雑草が廃屋を覆っている、草地と池その1その2
その他の写真は、一段高くなったところの手入れされた住宅もう1軒も保存状態良好学校らしき建物スキー場のようなスロープ深涌農荘埠頭の釣り人船で帰りますバイバイ深涌
船+平地歩きなので、時間さえあれば行くのは簡単だが、人気(ひとけ)がないので、もしものことを考えて1人で行くのは避けた方がよい。また船の便数が限られてるので注意が必要。船の時刻表はココ