狂舞派

監督と出演者たち
顏卓靈(チェリー・ガン)、蔡瀚億、楊樂文、范穎兒、Tommy "Guns" Ly 
黄修平(アダム・ウォン):監督


豆腐屋の娘・阿花(顏卓靈)はダンスが好き。豆腐屋の手伝いから逃れる方法は1つ。見事大学に合格した阿花は、豆腐屋の手伝いに別れを告げ、ダンスグループBombAに加わることになった。阿花はBombAのリーダーDaveに思いを寄せるようになるのだが・・・


監督からダンス映画を撮ると聞いた時、すぐに「ダンス映画はやめた方がいい。だいたい香港にはあんまりない。撮るのはとっても難しい」と答えたことをよく覚えている。香港のコンサートビデオの質が高くないことも知っていたので、音楽やダンスに絡む映画はリスクが大きいと危惧していた。しかしそんな危惧は杞憂に終わった。のっけからリズム感いっぱいの画面がいきいきと躍動していく。驚きだ。もちろん若者映画につきものの、恋も失恋も挫折も克服も、諍いも対決も勇気も描いているが、説経臭い台詞や説明的な台詞はほとんどないし、独白も少なくてウエットじゃない。台詞だけでストーリーを語ろうとはしないところも高得点。それでもカメラは丁寧に出演者の心情をなぞっていくから物語にも無理がない。
有名な俳優は出演していない。主役の阿花を演じる顏卓靈はタレント。最近は《大追捕》で任達華(サイモン・ヤム)の娘役を演じて注目されている。まるっこい顔と瞳が特徴的な可愛い雰囲気。ひとなつっこい笑顔と元気なキャラが物語りを引っ張っていく。もともとダンスが得意だそうだ。もう1人、注目するのは太極拳の使い手を演じる蔡瀚億。舞台俳優で、調べるとCMなどには出ているようだ。太極拳はこの映画のために練習したとのこと。この彼の飄々とした雰囲気がヒップホップとの対比にもなっており、新たなリズムを映画に作り出していく役割を果たしている。彼が出てくると退屈しない。その他の出演者もみなリアルにダンスが出来る人を起用しており、ダンスシーンがかっこいい。それはダンスシーンの撮影と編集もいいということだろう。もう1人かっこいい人が登場するが、それは映画を見てのお楽しみ。
物語が動き出すまでに少しもたつく感があるのと、途中少しだれそうなところはあるような気がするが、最後までリズムは途切れることがなかった。これまでに見たことにない新しい香港映画を見たという感覚が残る。


過去の香港映画でストリートダンスを扱ったものは私の記憶では1本だけある。邱禮濤(ハーマン・ヤウ)監督の《給他們一個機會》。夜な夜なダンスに興じる家庭に少し問題のある中学生(日本で言えば高校生)たちと、元ダンスをやっていて今はアクション監督となっている男(許志安)とその弟・Jack、教師などが絡んだ実話に基づいた物語で邱禮濤と楊漪珊の脚本による。「彼らにも機会を」というタイトルが示すよう、基本的には少しばかり教育的な雰囲気が漂う若者への応援映画となっている。
《狂舞派》は同じく若者への応援という要素はあるものの、それが全面に押し出されることはない。監督は大学で教えていることもあり、学生たちを近くから観察する機会は多かったはずだ。しかし先輩からの目線で若者たちを語るのではなく、彼らのありのままのかっっこい姿を撮りたかったのだろうと思う。そしてかっこいい姿を撮ることが、同時に背景にある努力や何かを克服する力をも描き出すことになり、必然的に若者応援映画になっているのだろうと思う。
2013.3.31@香港國際電影節(文化中心)


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