激戰(激戦 ハート・オブ・ファイト)

《激戰》
張家輝(ニック・チョン)、彭于晏(エディ・ポン)、安志杰(アンディ・オン)、高捷(ガオ・ジエ)、梅婷、李馨巧、姜皓文(フィリップ・キョン)、王寶強(ワン・バイチャン)、劉畊宏、盧覓雪(ミッシェル・ロー)、歐錦棠(スティーヴン・オウ) 林超賢(ダンテ・ラム):監督 
2013年


林思齊(彭于晏)大陸を自転車できままに旅する優雅は身分だったが、父(高捷)が事業に失敗し、今はマカオの土木工事現場で働いている。父はすっかり意欲を失い酒浸りの日々で、林思齊に「お前はいい歳をしてまだ何も成しとげていない」と怒り散らしていた。
程輝(張家輝)はかつてボクシング選手だったが、八百長試合をして刑務所に入っていた。出所後はタクシーの運転手をしているが、博打で多額の借金を作ってマカオに身を潜め、選手時代の兄貴分である太歲(姜皓文)を頼った。太歲はマカオのボクシングジムで働いており、程輝に女性相手のボクササイズのインストラクターの職を紹介してやった。マカオでの程輝の住まいは母(梅婷)と娘・小丹(李馨巧)の2人ぐらしのアパートに間借り。快活な娘は程輝に、部屋で酒を飲むな、五月蠅くするななどといろいろ注文をつけた。
ある日林思齊は酔った父を迎えに行ったバーで高額な賞金の出る総合格闘技の試合の事を知り、出場しようと考え、ボクシングジムを尋ねた。インストラクターは同じ試合に出場予定の選手には丹念な指導をしているが、林思齊にはこれといった指導をしてくれない。見かねた程輝が口を挟んだのがきっかけとなり、程輝が林思齊を指導することになってしまった。。。。


自らの手で自らを貶め自堕落だった程輝、日々の暮らしに追われ目標を見失っていた林思齊、事業に失敗し酒浸りだった林思齊の父、息子の死に自責の念に耐えかね精神のバランスを崩した小丹の母、けんめいに母を支える小丹。何かを失った者たちの心と家族の再生の物語。張家輝と彭于晏のホモソーシャルあり、張家輝と李馨巧、張家輝と梅婷の恋もあり、笑いあり涙あり感動あり。
何かを失った男(女)が、他者との出会いによって救われ再生されるという話しは、《新不了情(つきせぬ想い)》《忘不了(忘れえぬ想い)》《我要成名》(どれも劉青雲主演なのは偶然か)、少し形は異なるが《常在我心》などがすぐに思い浮かぶ。これらの作品が恋愛に重きを置き新たな恋に出会うことで救われるのとは違って、《激戰》の男たちは格闘技というハードな世界で自らの肉体を酷使し、極限に置くことによって再生していく。それは仮死状態に陥って蘇ると言ったほうがいいかもしれない。また《忘不了》では主人公2が共に救われるのをのぞけば、たいていはどちらか一方が救済されるにすぎないが、《激戰》では主なる5人が共に救済され、それぞれの家族も再生されていく。
梅婷の不安げなまなざし、母を守ろうとけなげな李馨巧の巧みさ、李馨巧と張家輝の掛け合い、3人が次第に疑似家族となっていく過程が、見るものに説得力をもって語られていく。父子の物語は、子の必死さに刺激され父が覚醒する様子が試合の経過とともに語られていく。そして、どちらも一度はまるくおさまるかと思えたところに再び試練が訪れ、それを克服することで、家族、親子の繋がりが強固になるというだめ押しの構図になっている。この作りはありがちだが、非常に巧みにできており、最も涙を誘う場面として物語の終盤を彩っている。
張家輝はこの役のためにトレーニングを積みボクサーに相応しい筋肉と体力をつけて臨んでおり、過去の映画でのがんばり故、監督に目を付けられた彭于晏とともに、役者根性を見せつけてくれる。
またマカオが舞台でになったことで、映画にある種の情緒が生まれている。


2015.01.27@新宿武蔵野館
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