雛妓(セーラ)

《雛妓》
蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)、任達華(サイモン・ヤム)、柳俊江、Sunadcha Tadrabiab、孫佳君、何華超(トニー・ホー) 邱禮濤(ハーマン・ヤウ):監督


雑誌記者の何玉玲(蔡卓妍)は、4か月かけて調査し仕上げた原稿を編集長にボツにされて怒り、タイへ気晴らしに出かけた。そこで幼いながら売春でかせぐDok-Myを知って助けだそうと考えた。何玉玲はDok-Myにかつての自分の姿を見ていた。
何玉玲の母は離婚しており、その後知り合った文房具店を営む男性と再婚した。義父は何玉玲に性的暴行を振るったが、母はそれを知っても義父に抗議することは出来なかった。何玉玲は家を出た。街で知り合った名誉も地位もある歳上の甘浩賢(任達華)との8年にわたる援助交際で、何玉玲は住まいをあたえてもらい学校にも行かせてもらっていた。しかしこの関係もいつかは終わりが来る・・・・


この映画でもっとも注目すべきは蔡卓妍のがんばり。デビューから15年ほど経ちすでに30歳を超えている蔡卓妍は、映画ではコメディエンヌとして一定の評価を得ているが、いつまで経っても実年齢とはかけ離れた少女の役を演じ続けている。しかし実生活では結婚し離婚もしていた事が離婚後に分かるなど、実年齢通りの30歳を超えた立派な大人だ。彼女にとって今回のこの映画は挑戦であると同時に、これまでの少女役から大人の女性役へ脱皮をはかるいい機会だったと思う。
ただこの映画は「性」や「児童売春」「援助交際」を扱い、さらに任達華との激しいベッドシーンもある3級片(18歳未満は見られない)で、台詞にもきわどいものがあった。少女からいきなりの脱皮だった。しかし彼女は期待を裏切らず、これまでに見たことのない蔡卓妍を見せてくれた。その彼女のがんばりこそが、この映画の大いなる見所になっている。
映画上映後、監督に直接聞いたところ、この映画のオファーに対して蔡卓妍は即答、マネージメント会社である英皇は出来上がった作品に幾らか意見があったようだが、最終的にはオーケーであったとの事。また蔡卓妍は好い子でスタッフ皆が彼女の事が大好きだと話していた。こういったちょっとした話しからも少女からの脱皮を事務所も彼女自身も強く望んでいたのではと想像される。そう言う意味ではぴったりの1作だったように思う。


邱禮濤はこれまでも性の問題を取り上げて、《性工作者十日談》《性工作者2我不賣身、我賣子宮》の2作品を、また不良少女を題材にした《靚妹正傳》、不良少年たちと返還に絡む刑期の問題を描いた《等候董建華發落》という社会派な作品も撮っており、つねに新しい話題を取り上げタブーともいえる題材に挑んでいる。今回もそういった作品の一つとなっている。


Q&Aで監督が語った事(時間が経ってかなりの部分を忘れてしまっているので参考程度に)

  • 映画の成り立ちは、この映画のプロデューサーである杜汶澤が《雛妓》というタイトルだけをもって邱禮濤のところにやってきてこういう映画を作るというので内容を考えた(この質問をしたのは私)。
  • その時に浮かんだのがこの映画で印象的に使われているドリス・デイの曲「ケ・セラ・セラ」だ。「なるようになる」という歌詞だが、10年後どうなっているのか分からない、そんな事を思った。
  • またかつて撮った《等候董建華發落》にも性的暴行を受けた少女のその後の姿が登場しており、それがこの映画の下敷きになったとも言える。
  • 自分の娘が父(義父)などから性的暴行を受けているのを知っていても抗議できないという母親は実は多い。それは教育が行き届いていないからだ(自分で生きて行けるだけの経済力のない母は自らの生活が立ちゆかなくなるのを恐れて声を出せないということもあるだろう)。
  • 香港はまだそれほどでないが、タイでは児童売春は大きな問題だ。

2015.03.15@シネ・ヌーヴォ(大阪アジアン映画祭)
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