《十分愛》と《醒獅》の勝負

香港映画は続いて低迷、最近公開になる映画は大変少ない。幸いなことに《十分愛》は好評で、興行成績は1000万を超えており、制作費の大きくないラブコメとしては理想的な状態だ。


◎新時代の都市感覚を持った《十分愛》
葉念深*1脚本・監督、[登β]麗欣(ステフィー・タン)、方力申(アレックス・フォン)共演の《十分愛》は、彼らが昨年撮ってヒットした《獨家試愛》よりさらに人が入っている。前作に続いて新時代の都市感覚を把握、若者の愛情、結婚と友情の問題をビビッドに内容豊に描いたことが成功に繋がった。このような群像劇はありふれたものだが、新しい世代の考え方も単純ではなく、むしろ心理は複雑で理論をもてあそび、真実とウソが入り交じりっているということがはっきりと見て取れる。
《十分愛》は、香港映画が新しい観客を呼び込めるということを再び証明して見せたことになる。しかし最近のもう2本の香港映画は単純な考えで、失敗に終わっている。


◎《明明》はストーリーがナンセンス
區雪兒(スージー・オウ)監督、周迅(ジョウ・シュン)、呉彦祖ダニエル・ウー)、楊祐寧(トニー・ヤン)共演の《明明》は、新しいタイプのMVがウリで、ストーリーはナンセンス。キャストも製作もけして貧弱ではないが、興行成績は100万に満たない。
さらに興行成績が悪いのは《醒獅》。香港の奇妙な現状を風刺して、時事的な話題をひっぱりだして笑いを取る。さらに黄秋生(アンソニー・ウォン)には、[譫-言]瑞文(チム・ソイマン/ジム・チム)をまねて、鍾景輝の声色をさせている。このたぐいは、テレビや舞台のように簡単にはいかないものだ。


◎《醒獅》は古い話題で作られている
《醒獅》は林超榮脚本、呉鎮宇(ン・ジャンユー)と麥子善(マルコ・マック)監督、黄秋生、毛舜[竹均](テレサ・モー)、林子聰(ラム・ジーチョン)、林苑(ジア・リン)、張敬軒(ヒンズ・チャン)共演で、多くのスターも客演しており退屈はしない。では何故興行成績が悪いのか? 原因は頭を使っていないことだ。私房菜(プライベートキッチン)、仕事も勉強もしない若者、会社を首になる、プールに赤い虫、炭で自殺などを取り出してみるが、みな「古い題材」で、過ぎ去ったものばかり。
獅子舞は中国の国粋を表し、南の獅子は香港の精神を表している。これは黄飛鴻時代のcollective memoryであって、現在となっては古くさいものだ。しかし古くさいものも、変わる可能性がある。もしうまくいっていればとても興味深いものだったと思う。たとえば、大学生が古くさい相撲を練習するという90年代の日本映画《しこふんじゃった》が、大いにウケ、ヒットした青春コメディになったように・・・。(以下略)by 2007.5.7「明報」石[王其]記

*1:深のサンズイを王へんにした字