綁架(誘拐ゲーム)

《綁架》林嘉欣(カリーナ・ラム)、劉若英(レネ・リュウ)、張兆輝(チョン・シウファイ)、張智霖(チョン・チーラム)、趙會南、郭濤(グオ・タオ)、官恩娜(エラ・クン) 羅志良(ロー・チーリョン):監督


林暁陽(林嘉欣)は、演劇を教え、車いすの夫(趙會南)は、病気がちでいつ入院するか知れない。3年前、暁陽は弟を誘拐され、警察を信じたために弟を助け出せなかった過去を持っている。その時の刑事・智叔(張兆輝)は、いまは彼女の良き理解者となっている。3年前の事件を担当したもう1人の刑事・何婉真(劉若英)は、夫(張智霖)と分かれているが、ふたりのあいだには子供が1人いる。
ある日、富商(郭濤)の息子が何者かに誘拐され、身代金を要求された。事件を担当するのは3年前の誘拐事件と同じ、何婉真と智叔だった。しかし、本当に誘拐されたのは、富商の息子の友人だったもう1人の子供。その子供こそ、婉真の息子だった。困惑する加害者。そして、これまで誘拐を担当していた婉真は、自分の子供が誘拐されて初めて、被害者の気持ちを味わうのだった・・・。


監督の羅志良は《救命(カオマ)》では、林嘉欣と李心潔(アンジェリカ・リー)を使っているが、今回もやはり女性2人。林嘉欣と劉若英が向き合う。林嘉欣は髪を短く切り、銀色に染め、シャープな感じを出そうとしているのだが、いっそ見かけは女らしくても沈着冷静、心はシャープという方がいいのではと思ってしまう。劉若英は、またも心にみんな抱えてしまう役で、多少の狂気も必要。比較的自在に狂気を操れるので、特に不満は感じない。林嘉欣もけして下手ではないのだが、女性同士のシャープな対決はなかなか難しく、刑事の張兆輝が出て来ると、とたんに画面もストーリーも緊張してくる。
張智霖は、激情しやすい元夫の役だが、私には、彼は何かたくらんでそうな顔に見えるので、粗暴で激情しやすい役より、最近でいえば《天行者》の辣腕弁護士のような嫌味な役がふさわしいと思える。役のイメージと役者のイメージが微妙にすれ違う。


そんな中でよいと感じたのは張兆輝。本来事件を探るべき劉若英が被害者になり、捜査側の主導は別の人間がにぎる。ところがこの主導権をにぎったはずの人物はあまり出てこない。結局、張兆輝が刑事的感で犯人を特定していくことになる。犯人は彼だけには気がついて欲しくないと思っているし、もし分かったとしても自分の心のうちを理解し見逃してくれるかもしれないと思っている。


誘拐の加害者になることも、被害者になることも、めったにあり得ないこと。さらに被害者と加害者が入れ替わるなんてことはもっとあり得ないことだ(香港産コメディならありそうだ)。そんなあり得ないだらけの事に、唯一現実味を感じさせるのが、犯人と張兆輝関係で、2人の微妙な関係がもっとも映画に緊張感を与えてくる。被害者は加害者に、加害者は被害者にと入れ替わっていくので、見ているうちに主軸がどんどん曲がって行くのがわかる。被害者にも加害者にも思い入れはできない。いったい誰を見ていればいいのか迷うと、結局、犯人探しをする張兆輝に眼がいってしまうのだ。映画の本質は加害者と被害者の立場の逆転なのだと思うが、それにしては、本来傍観者であるべき張兆輝の役にいろいろな役割を与えてしまたのかもしれない。果敢なストーリーの挑戦も今ひとつかも。


最後に言葉の問題を。劇中、林嘉欣は広東語と英語、劉若英は広東語(自ら話しているらしい)と、郭濤と話す時だけ普通話(北京語)を話す。これはいたしかたないが、劉若英は普通話の方が圧倒的に感情がこもっている。わざわざなまりのある広東語を本人に話させなくても良かったのではないか。


ロケ地について。劉若英の家は、前々から気になっていた英皇道沿いの建物。犯人との取り引きには、香港海防博物館が使われているのはすぐに分かった。
2007.6.9@GH旺角


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