文雀(スリ・文雀)

《文雀》任達華(サイモン・ヤム)、林煕蕾(ケリー・リン)、林家棟(ラム・ガートン)、羅永昌(ロー・ウィンチョン)、張滿源、盧海鵬(ロー・ホイパン)、林雪(ラム・シュ) 
杜琪峰(ジョニー・トー):監督


棋(任達華)、震波(林家棟)、蘇(羅永昌)、馬仔(張満源)の4人は組んで仕事をしているスリ。ある日、写真を撮る棋のカメラアングルに美しい女性が飛び込んできた。夢中でシャッターを切る棋。またある日、震波は賭場で高価な腕時計を付けた美しい女性を見かけた。酔い潰して腕時計を頂こうとしたところ反対に自分が酔いつぶれて腕時計を取られた。蘇はエレベーターに乗り合わせた美女から電話番号を書いた紙を貰った。馬仔は車がエンストしてこまっている美女をバイクに乗せところ、電話番号を聞かれた。美女(林煕蕾)はいったい何を企んでいるのか・・・。


映画が始まるとベッドに腰掛けスーツのボタンでも直しているように糸と針を持つ任達華が映し出される。嬉しそうにリズミカルに少々誇張ぎみに糸と針をあやつりボタンを付け、ジャケットを着て鏡を見る。出かけようとしたところに文鳥が部屋に飛び込んで来る。捕まえて逃がしてやるが、また部屋に入って来しまう文鳥に任達華は仕方ないといったあきらめ顔をする。そして、任達華は軽やかに自転車をこぎ街を走る。


いままでの杜琪峰作品とはひと味違って軽々とした気分に満ちあふれた作品。見事な手口で相手を騙して財布をすってしまうスリたちが1人の謎の美女に翻弄されていく滑稽さ。誇張ぎみのドラマと仕草。特に任達華は、画面に登場したところからすでに芝居がかっている。林煕蕾も負けずに小芝居で男どもを手玉に取る。音楽もこ洒落ているかと思うと、ちょっと外した楽しさがある。いつもは夜が多い杜琪峰の趣味作品にはめずらしく昼間がふんだん。しかし最後の見せ場はやっぱり夜になってしまうところが杜琪峰だが、1人の死人も1発の銃弾も発せられない。そして本当の最後の最後も昼間で終わる。
初めて見ると、少し物足りなさを感じる。それは、前作《放・逐》が、《鎗火》から続く杜琪峰の黒色趣味映画の集大成だとすれば、《文雀》は杜琪峰の白色趣味映画の最初の作品で、おなじみのフォーメーションにしても、物語の外し方にしても、まだ未完成の部分があるように思えるからだ。しかしその軽やかさから何度でも見たくなる不思議な映画だ。
2008.6.19&20@旺角百老匯


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《文雀》のロケ地についてはココに。