維多利亞壹號(ドリーム・ホーム)

《維多利亞壹號》何超儀(ジョシー・ホー)、陳亦迅(イーソン・チャン)、葉璇(ミッシェル・イエ)、單立文(シン・ラップマン)、曾國祥(デレク・ツァン)、周俊偉(ローレンス・チョウ)、麥俊龍(ジュノ・マック)、王青、廬海鵬(ロー・ホイパン)、鮑起静(パウ・ヘイチェン)、徐少強(ノーマン・チョイ)、林耀聲、谷祖琳(ジョー・クー)、余力為(ユー・リクワイ) 
彭浩翔(パン・ホーチョン):監督


「2007年、香港人の平均収入は月10100香港ドル。平均収入以下の人は人口の24%、600スクエアフィートの高級住宅は700万香港ドル。給与の上昇は楼価(香港では地面は売らないので地価とわいわず楼価という)の上昇に追いつけることはない・・・」と字幕が出て始まる。
マンションの管理室、夜居眠りをしているセキュリティーの部屋に何者かが忍び込み、セキュリティーを絞め殺してしまう。そして侵入者は・・・・。
鄭麗嫦(何超儀)は、金融機関につとめ1日電話で融資を薦める仕事、夜は夜で別の仕事をしている。友人とも遊ばず、旅行にも行かず、そうまでしてお金を貯めているのは、自分が住む部屋の前に立つ高級マンション「維多利亞壹號」の部屋を購入したいと考えているからだ。
嫦が子供の頃、かつて船乗りだった祖父はいつも海を眺めていた。そして父は「自分は甲斐性なしだ、おまえが自分で稼いで自分の部屋がある住宅を買えばいい」と言った。嫦は大学に受かったにも関わらず家計の為と仕事についた。母が亡くなった時、嫦は快適な住宅を買ってやれなかったと嘆いた。そして2007年、父は肺に影があると医者に言われるのだった・・・・。


暴力も血もセックスも薬物も裸も登場するスプラッター。III級。目を背けたくなるシーンも多々あり(ところどころカットしたのか暗転したまま数秒が経過する場面もあり)。「海の見えるマンションを買いたい」、ただそれだけの為に常軌を逸した行動に出てしまった女性の物語。家族が一緒に海の見える部屋に住むという本来の目的が、ただ部屋を所有したいという欲望へ変貌していく様が興味深いのだが、この一番面白い部分には焦点があてられておらず、その後の殺人の方に重きが置かれているので少し物足りない。ただ同じようなテーマ(買いたくても住宅が買えないという状況)は、もちろん他の表現でも撮れるだろうから、これをスプラッターに仕立てたところは評価したい。血も出てかなりグロいが、観客を怖がらそうとしているわけではなく、殺人犯は狂気にとりつかれながらもいたって冷静に殺していく。犯人が殺人を犯した理由は最後に明らかになるのだが、そのいかにも香港らしいい理由をも皮肉っている。またそれとなく皇后碼頭取り壊しに反対する人々の映像や、利東街取り壊し反対横断幕なども映画に忍ばせている。映画全体に流れる雰囲気は、スプラッター部分を除くと無機的な感じで《出埃及記》に近い。
撮影は映画にもちょい役で登場する余力為だが、タイトルバックのマンションの窓が連なっている様子はマイケル・ウルフだし(ココ参照)、香港を切り取る風景はまるで本城直季のアオリ撮影風。ちなみに鄭麗嫦の住まいとして登場する建物は、ココだった。
最後にちょっとショックだったのは、もし吹き替えでなければ、周俊偉はヘソピしていて、さらにかなり腹部に脂肪がついていたこと(笑)。
2010.5.13@旺角百老匯


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