呉宇森(ジョン・ウー)

呉宇森&評論家たち
呉宇森討論会(記憶で)
遅れて来た呉宇森ジョン・ウー)は、「申し訳ない、香港へ帰ってきたら自分のウチに帰ったみたいにリラックスしちゃって。遅れてしまった、許してくれ。次回はしないから」って、なんかお茶目な始まりかた。
司会は羅卞(ロー・カー)、呉宇森とは旧知の間柄。さらに今回は香港の若い(若くない人もいたけど)評論家が加わり、彼らから呉宇森への質問という形ですすんだ。因みにこの評論家たちの何人かはいつも電影中心で会員対象に行われているサロンで話しをする人たちで、香港電影評論学会の会員。
呉宇森は「いまは、あらゆるものも受け入れるようになっている。たとえそれが悪い評価であっても。また若い人と話をする機会は少なくなっているので、今日はいい機会だ」と、ご機嫌の様子。

問:ハリウッドにおける編集権について。
呉:編集権は大変に大事な権利。しかしこれを持っている監督は、ハリウッドでも5人ぐらいだ。最初の映画では、自分も編集権がなかったため、出来上がったものを見て怒った。《フェイス・オフ》以降は自分で編集権を持つことが出来るようになった。香港でも上映時間の制限から短くということがあったが、ハリウッドでも同じ。《ウインド・トーカーズ》では、長かったため短くしてくれと言われた。
問:あれを撮るのこれを撮ると、いろいろ言われているが。
呉:ハリウッドの報道はウソだらけ。主流には興味がない。《スパイハンター》は撮らない。いま考えられるのは、《仁義》(Red Circle)のリメイク。某社が版権を買っている《第三の男》のリメイク。これは映画会社の方が熱心に言ってきていて、面白いと思っている。そして《赤壁之戦》。
問:911以降、ハリウッド映画の題材に変化はあるか。
呉:童話的なものやアニメが増えたが、題材的は目立った変化はない。いまでも戦争ものは撮っているし、人が入っている。
問:主流はいやだというなら何を。
呉:ハリウッド映画がいいと思うのは思い違いだ。とにかくハリウッドは、1人では何も決められない。あれはこっちと話して、さらに誰と話してと、いくつもの層になっていて、会議ばかり。もう自分は60歳になるのに、そんなに時間は使ってられない。政治やらなにやら、いろいろな事で3分の1の力で撮らなければならない。1人には限界があるんだ。
それにいまのハリウッド映画にはいろいろ問題がある。まずいい脚本がなく、いい題材もない。それで香港や韓国や日本の映画の版権を買っている。いま日本の映画のリメイクものがヒットしてるのもそういうことだ。
これからは自分の好きな物を撮ると決めた。資金が少なくても大きくても関係ない、好きなものを撮りたい。それに中国には可能性がある。中国・台湾・香港が力を合わせていけば、ここに中国のハリウッドが作れる。いまハリウッドも中国には注目していて、大きな映画会社はみな上海や北京に事務所を置いている。
問:ハリウッドではいまリメイクが多いが。
呉:リメイクものはヒットしていない。サム・ペキンパーのも(《ワイルド・パンチ》のことか)悲惨だ。カメラアングルから何から同じになってしまう。自分がやろうとしているのは、《第3の男》は映画会社が言ってきているものだが、舞台は中国に移す。《仁義》のリメイクは、日本人と英国人とアメリカ人が主人公。ある日本人(彼の出身地は北海道)が流れ流れて英国に行く。彼はちょうどいまの僕みたいに、時々故郷の日本に帰っている。その日本人はいつも1枚の写真をもっている・・・。日本人は高倉健がいい。もとのままのリメイクはしない。
問:新しい技術(デジタルのもの)を使ってみたいとは思わないか。
呉:かつてテレビで試しているけど、嫌いだ。自分は古い人間だから、映画はフィルムだということにこだわる。映画は映画なのだ。
問:映画がこれから集客を競うものは、ゲームであったり、ネットであったりする。いずれ映画は無くなってしまうという心配はないのか。
呉:まったく心配していない。映画は映画なんだ。題材にしても、自分の考えは変えることは出来ない。実は自分が撮っている映画は、題材はシンプルで古くからあるものだ。それを新しいパッケージにしている。《英雄本色》にしても、基本にあるものは簡単なもの。「誰かの為に」という簡単なものだ。
問:評論家は時に大変に孤独に感じるのだが。
呉:監督もことごとく人に理解されないし孤独。創造は孤独から生まれるものだ。100万人の中に1人理解してくれる人がいればいい、それで嬉しい。
問:アメリカに行ってから作風に変化はあるのか。
呉:ハリウッドでは撮れない題材がある。たとえば、犠牲的な精神というようなものは、理解してもらえないので撮れない。また《ウインド・トーカーズ》は最初、簡単なストーリーだったが、それを反戦映画にかえてしまった。しかし期日や資金の関係でうまくこなれていない。ハリウッド作品は資金が潤沢なように見えるが実はそうでもない。だいたい俳優がかなりな額をギャラで持っていく。それ以外にスタッフの人件費や事務所の費用やいろいろかかって、結局本当の製作費は全体の資金の3分の1ぐらいになってしまう。ハリウッドでは予算が大切で、予算の中ですべてやらなければならない。《ウインド・トーカーズ》はハワイで撮影していたが、雨が降ってしまった。スケジュールはきっちり決まっていて、スタッフ、エキストラ、そして彼らの食事にいたるまで、予算で決められている。雨が降れば撮れないわけだが、予算の中でなんとかやらなければならない。最終的に自分でかなりな金額を払って、撮影することになった。雨が降ったらどうするかというと、幕か何かで雨を遮って、アップで撮ってごまかす。とにかく撮らなくちゃいけないからね。