馮徳倫

監督、自作を語るEEGが香港電影資料館にフィルムを寄贈したので、それを記念して、寄贈されたフィルムの監督たちについての座談会が6月19日から行われていた*1が、毎回時間がとれず、最後の9日の馮徳倫スティーブン・フォン)の回だけなんとか行くことが出来た。この日は、本人が登場して自作について2時間たっぷり語った。時間が経ってしまったが、思い出したものを少し書き留めておく。聞き手は葉念琛*2

葉念琛:いつから監督をしてみたいと思っていたのか。
馮徳倫:小さい時から興味はあったんだと思うが、やはり俳優をしている時にやってみたいと思った。
葉:誰の影響を一番受けていると思うか。
馮:やはり今まで一緒に仕事をした、特に《特警新人類》で仕事をした陳木勝(ベニー・チャン)からは、画面の構図やライトの使い方などいろいろ啓発を受けた。
葉:《大佬愛美麗》は、黒社会モノで喜劇的。80年代香港映画がもっとも光り輝いていた時代の映画が大好きだというのが伝わってくる映画だが、このストーリーはどうやって出来たのか。
馮:ストーリーの元はかなり長い時間考えてたもの。喜劇は好きで、撮りたい映画の1つだった。それに第1作目は興行成績が上がらないと次に繋がらないと思ったので、比較的安全な喜劇を撮った。資金がなくてはよい商業映画は撮れないと思っている。イギリスのブラックユーモアが好きなので、そういう要素を入れた。社内で上映した時に、社長が笑ってくれなかったので、とても心配した。初めての作品だから、あまり自信がなかったが、映画館では、みんなが笑ってくれたんで安心した。自分の考えていることが間違っていなかったと、それが自信になった。
葉:《大佬愛美麗》も《精武家庭》もどちらも家族、親子の愛情が主題だか。
馮:親子の情(父と息子)は自分が撮りたいと思っているもののひとつ。上手く説明できないが、友情、愛情など「情」は、バイブルと言われるような作品には必ず描かれているものだ。
葉:銃については。
馮:80年代の映画にたくさん描かれていて、特に呉宇森の作品が印象にある。自分も銃が好き。
葉:《精武家庭》を見ると80年代風のものが撮りたいというのが好くわかる。
馮:映画で国際的に通じるものは、アクションとホラー。喜劇は言葉の問題があるので難しい。
葉:俳優が監督になるとだんだん作品には出なくなるものだけど。
馮:両方をやるのは大変。《大佬愛美麗》は出たく無かったんだけど・・・。《精武家庭》は自分がやりたかった(笑)。
葉:俳優から監督になることで何かプラスのことはあるか。
馮:そんなにいいことはないけど。成りたい人の助けになればいいと思っているけど。プレゼンの時に有利かもしれない。知り合いが多いから、いろいろな人にゲスト出演して貰えると言えるかな。
葉:馮徳倫風とはどういうものか。また目標は。
馮:まだ2作品を撮っただけ、自分のスタイルなんてものはない。ただ、常に新しい視点で撮って行くだけだ。目標はやはり呉宇森。本人を知ってよりそう思った。
葉:次の作品について。
馮:次回作は、まず自分が俳優として出演する《犀照》*3で、自分の監督作品は、いま脚本を見ているところで、早くて来年になると思う。毎回プレッシャーは大きい。自分が撮りたいモノを撮ればいいという人もいるが、商業映画だとそれは問題があるけど、少なくとも自分が好きな題材を撮っていきたい。
葉:俳優としての馮徳倫は。
馮:脇役やゲスト出演は楽しい。リラックスしてできるし、いろいろなことができる。一番好きなのは《半支煙(わすれな草)》。台詞はほとんどないけど、面白い役だった。あとはTVの《新鮮人》。
葉:他の俳優たちや新人の映画については。
馮:呉彦祖ダニエル・ウー)は、いい男。そんないい男にはいい男の役は与えない(笑)。最近では《死亡写真》の黄婉伶(レース・ウォン)はいいと思った。
葉:映画にしたいことは、撮りたい場所。
馮:香港の歴史上特別な場所である九龍城塞や、饅頭祭りがある長洲、マカオが面白いと思う。
葉:《英雄本色(男たちの挽歌)》のリメイクという話しが出ているが*4
馮:その報道は正しく無い。《英雄本色》をリメイクするなんて不可能。正しくは80年代風の英雄片(ヒーローもの)を撮りたい。もう長いことヒーローものは撮影されてない。銃撃シーンのかっこいいヒーローものを、新しい視点で撮りたい。どこに新しい視点を置くかが重要なのだが、友情など残さなくてはいけないものもあると思っている。

馮徳倫、撮りたいものがはっきりしている。芸術映画じゃなく商業映画、人がちゃんと入る映画が撮りたいというのが好く分かったインタビューだった。中には撮りたいものと売れるもののあいだに隔たりがあって、多少無理をして、折り合いをつけなくてはいけない人もいるだろうけど、彼はその点は、あまり苦労しなくてもいいように感じた。
《英雄本色》がインタビュー中に何回も登場するのだが、その1は映画館では見ていなく、2は映画館で見たと話していた。とにかく映画が好き、それも80年代の香港映画が好きというのは《精武家庭》を見ると本当に好く分かる。そしてとても上手く80年代の要素を消化して、新しいパッケージで見せてくれる《精武家庭》は、新しいタイプの香港映画だと言える。

*1:具体的には畢國智(ケネス・ビー)監督《海南鶏飯(ライス・ラプソディ)》、葉錦鴻(イップ・カムホン)監督《一碌蔗》、鄭保瑞(チェン・ポウソイ)監督《熱血青年》、馬偉豪(ジョー・マー)監督《常在我心》、馮徳倫《大佬愛美麗》《恋愛起義之愛得鎗狂》。

*2:《恋愛起義之愛得鎗狂》の共同脚本家

*3:《犀照》についてはid:hkcl:20050708#p1

*4:《英雄本色(男たちの挽歌)》のリメイクについてはid:hkcl:20050528#p1