阮玲玉(ロアン・リンユイ 阮玲玉)

《阮玲玉》張曼玉(マギー・チョン)、梁家輝(レオン・カーファイ)、秦漢(チン・ハン)、劉嘉玲(カリーナ・ラウ)、呉啓華(ン・カイワ)、葉童(イップ・トン/セシリア・イップ)、李子雄(レイ・チーホン) 
關錦鵬(スタンリー・クワン):監督 
1992年 カラー 國・粤語 嘉禾


日本でも公開になっているのでストーリーは省略。1930年代に活躍した女優・阮玲玉の伝記的映画だが、ただ伝記をなぞるのではなく、《阮玲玉》という映画製作の過程をみせつつ、彼女の半生を探っていく。配役は、張曼玉=阮玲玉、梁家輝=蔡楚生、秦漢=唐李珊、張達民=呉啓華、葉童=林楚楚、李子雄=黎民偉、劉嘉玲=黎莉莉。


日本公開時(1993年らしい)に1度、もしかしたらその後もう1度見ているかもしれないが、細部はかなり忘れていた。また当時、本格的に香港映画を見始めて日が浅く、阮玲玉は初めて聞く名前であり、しかも1作品も彼女の映画を見たことがなかったため、表面をなぞる程度の理解しかできていなかったと思う。加えて広東語も北京語も上海語も区別がつかなかったため、この映画にはいまひとつおもしろみを感じられなかった。しかし今回、阮玲玉特集ですでに何本が彼女の作品を見たあとでは、かなり興味深くこの映画を見ることができた。
阮玲玉は16歳ですでに男性と同棲、その後女優になり、愛人である張達民との間でくっついたり離れたりと感情の安定しない女性だったらしい。スクリーン上のふにゃっとした笑顔から想像されるのは、優しいがとらえどころのがなく、情緒不安定そうで崩れ落ちそうな魅力。張曼玉は非常に丁寧に阮玲玉を演じており、この作品で金像奨最佳女主角を受賞しているが、2人の女優は本質的に差異がある。凛とした堅さを持った張曼玉が、曖昧模糊とした輪郭を持つ阮玲玉を演じ切るのはかなり困難だったと思う。特に最後、自殺直前の姿が非常に難しかったのではと思う。だからこそ、映画製作過程のディスカッションや監督へのインタビューを挿入しながら、1人の女優がどのように役になりきっていくのかを通して、阮玲玉の本質を探るという構成にしたのではないかと思う。その点では監督の勝利である。


当時、上海の映画界にはかなりの数の広東人がいたそうで、阮玲玉、蔡楚生、黎民偉、林楚楚ともに広東の人で、劇中も広東語で話している。また映画最後にはトーキーが導入されようとしており、阮玲玉は劉嘉玲扮する黎莉莉から北京語を習っているという台詞も出てくる(一説では阮玲玉は北京語が下手で、声が悪くがらがら声であったと言われている)。その他、北京語、上海語と言語が入り乱れているのは、關錦鵬が言語に対しても気配りをしていたということになるのだろう。
ついでながら、阮玲玉の死後、張達民は駄目男ぶりを存分に発揮して、自らが張達民を演じた映画を撮ったりもしたそうだが、40歳前に亡くなっているようだ。また唐李珊は、晩年台湾の路上でたばこを売っていたという話もあり、あまり恵まれた晩年ではなかったようだ。
2010.6.12@香港電影資料館(神女生涯原是夢 ・ 阮玲玉電影展)


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