得閒炒飯(愛に関するすべてのこと)

《得[門/月]炒飯》呉君如(サンドラ・ン)、周慧敏(ヴィヴィアン・チョウ)、陳偉霆(ウィリアム・チャン)、張兆輝(チョン・シウファイ)、谷祖琳(ジョー・クー)、萬綺雯(マン・イーマン) 
許鞍華(アン・ホイ):監督


弁護士の美思(呉君如)は、マタニティークラスで、懐かしい人・Anita(周慧敏)にばったり出会う。2人はかつて恋人同士だったが、今はともに妊婦となっていた。
Anitaは、暇にまかせネットで知り合った若者・Mike(陳偉霆)とのたった1回で妊娠。なんと相手は19歳の学生だったことを知って一度は堕胎を考えるが思いとどまっていた。美思は、となりのオフィスのRobert(張兆輝)から暴力行為で妻に訴えられた件で相談を受け、妻への接し方を解いているうちに関係が出来て妊娠していた。美思はある時は異性とある時は同性と、2つの性をいったりきたりしている。美思の元彼女・Eleanorと惠惠のカップルは、養子を取ろうと考えているのが、女性2人名義では裁判所からは許可が下りない。美思の子供は自分たちが面倒を見てもいいとも考えていた。方や美思はAnitaとともに子供を産んで2人で育てるのもいい案だと思っていた。
ところが、銀行勤めのAnitaは未婚での妊娠を会社が知り、会議室に閉じ込められ、仕事を与えず辞職に追い込むといういじめに遭ってしまう。会社を辞めて出産を取るのか、子供をあきらめ会社を取るのか、さらには美思のころころ変わる考えにも振り回される。子供たちの父親、Mikeは何かとAnitaを助けようとつきまとい、Robertもまた男として責任を取ろうと考えるのだが。。。


脚本は楊漪珊。これまでに《等候董建華發落》《性工作者十日談》《我不賣身我賣子宮(崖っぷちの女たち)》で邱禮濤(ハーマン・ヤウ)と組んで仕事をしており、どちらかというと底辺の人々を主人公にした作品を手がけてきたが、今回はセントラルを舞台に銀行員や弁護士、CMディレクターというミドルクラス以上の人々が主人公。許鞍華は、本來なら深刻になりそうな同性愛、望まぬ妊娠、出産といった話題を軽々と小じゃれて見せてくれる(ただ、ほんの少し、ほんの少しだけ、学生運動のかおりを嗅いだような気がしたのは付け加えておく)。


美思とAnitaは同性愛か異性愛かに悩むことはなく、2つの性を行き来している。特に美思は、何かを約束すること(=束縛されること)を極端に避け、男と結婚することなどつゆほども考えていないばかりか、生むか生まないかもすべては自分の判断。Anitaも生む生まないの選択に子供の父親は考慮にない。それより、生む生まないで変わるかもしれない美思との関係の方が彼女を悩ませている。子供の父親たちはといえば、逃げてしまうことなく一生懸命父親として責任を取ろうとはするのだが、MikeはAnitaにつきまといはするが相談相手にもしてもらえず、Robertも美思の前ではまったく用なしなところが可笑しい。世界は女性が回している。
キャストもよく、役柄についても、呉君如も周慧敏も、谷祖琳も萬綺雯も、ことさら誰かが男性的に振る舞うということもなく、ごく普通の女性を演じているし、男性陣では陳偉霆が心配だったが、これまでにない素直な演技で普通の大学生に見えた。
舞台はセントラル、あのエスカレーターを上ったり下りたり。美思とAnitaが分かれがたく、お互いの住まいの間を何回もエスカレーターでいったりきたりする様は面白い。
2010.8.21@新寶戲院(優先場)


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