浮城

《浮城》
郭富城(アーロン・クォック)、楊采妮(チャーリー・ヤン)、鮑起靜(パウ・ヘイチェン)、何超儀(ジョシー・ホー)  
嚴浩(イム・ホー):監督


水上生活者に貰われた男子・布華泉の成長と香港の移り変わりを描く。
香港人女性とイギリス人の間に生まれた男子は、生母がつけていた金のイヤリングの片方と一緒に筲箕湾の漁民で水上生活をしている一家に貰われた。となりの船に住む従妹一家はある日、漁に出かけたまま戻ってこなかった。
漁民に学は必要ないと父は言うが、牧師は子供たちに学校へいくように勧め、布華泉(郭富城)は二十歳になって初めて近所の小学校に通うようになり字を覚えていく。丘にあがって商店の小僧としてつとめてほどなくして、一家の船は嵐に遭い父は亡くなり、母と乳飲み子を含む6人の子供だけが残された。長男にあたる布華泉は、人一倍働き、借金や借りていた船の代金を払っていくが、借金はなかなか減らない。困りはてた母は子供たちを修道院に預けたり里子に出す。
布華泉はそのころには、字が書けるということだけで東印度会社の雑用係として雇われ、仕事をしながら勉強を続けた・・・。


実話に基づいた物語だが、主人公・布華泉の成功物語を描いているわけでもない。成功物語を描くなら、いかにして彼が苦労して学び、いかにして英国系の会社の中で上り詰めていったのか、というところに焦点があたるはずだが、そういったものは何も描かれてない。たしかに学校に通い始めるところ、東印度会社に勤めはじめるところ、結婚をしようとするとこなどが出てくる。しかし肝心な昇進の場面や結婚式などの場面は出てこない。画面が変わると服装が変わり、オフィスの様子が違うことで、彼の昇進は分かるが、そのことが物語の焦点なら、こんな中途半端な映画は作らないだろう。では何なんだろう? 
イギリス人と中国人の間に生まれた子供・布華泉こそが香港の事に他ならないだろう。中国人でもイギリス人でもないそのはみ出しっ子・香港は、宗主国パトロン)であるイギリスのおかげで、世界で通用する英語をあやつり次第に裕福になっていく。一時期、本来の自分を忘れそうになるが、自分の寄って立つ場所を再認識し、香港(家庭)に戻り、よりよい香港(家庭)を作ろうとしていくという物語なのだ。そう考えると、すべてが納得できる。
2012.5.18@The One 百老匯


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