피에타(聖殤(ピエタ))(嘆きのピエタ)

《聖殤(ピエタ)》
イ・ジョンジン、チョ・ミンス 
キム・ギドク:監督


高利貸しの手先として、借金の払えない債権者に重傷を負わせて保険金で支払わせるという残忍きわまりない仕事をしている男(イ・ジョンジン)の所にある日、中年の女性(チョ・ミンス)がやってきて、自分は「生まれてすぐにお前を捨てた母親だ」と言ってつきまとうようになる。男は、最初は女性を拒絶するが、次第に母親だという言葉を信じるようになり、これまで非道だった借金取りの手口も次第に変化が・・・


キム・ギドクは、華語映画以外で複数作品を見ている監督の1人。少ない登場人物、少ない台詞、台詞と台詞の独特の間、音楽どれも好みで、いつもドキドキされられる。台詞でシチュエーションを説明しない。今回も特に説明的な台詞や場面はなく、あらゆるものが唐突に登場してきて、断片の積み重ねで徐々にこの残忍な男の性格や中年女性の素性が明らかになっていく。そして最後はこれまた思ってもみない突唐な展開になっていく。画面はいつも謎に満ちていて、見るものを惹きつけてやまない。さらに結末が書けないので、もどかしいのだが、男は一瞬にして母の真意をすべて理解したと思いたいのだが、そこは議論の余地があるのかもしれない・・・。
舞台になったのはソウルの清渓川(チョンゲチョン)という河川の流域に取り残されたようにある小さな鉄工所が密集した地区。周りにはビルが迫っている。調べるてみると、清渓川周辺はもともとはスラム化した場所で川には生活汚水が流され汚染状態が酷くなったため、政府はスラムを撤去するとともに川を暗渠にして上に高速道路を建設。2000年頃から川の復元を求める声が高まり、2003年から高速道路を撤去して河川の復元工事をし親水公園とし市民の憩いの場となったとある。しかしもう少し検索するとこの復元工事に反対した多数の住民がいた事も分かった。
近代化という名の元に見捨てられた廃墟のような街は、母親から見捨てられた男が見る絶望的な風景とどこかで重なっているように思える。
タイトルの「ピエタ」とは「慈悲」や「哀れみ」という意味で、図像としては磔刑のあと十字架から降ろされたキリストの亡骸を抱く聖母マリアを描いたものを指す。ポスターの構図は、サン・ピエトロ大聖堂にあるミケランジェロ作の大理石の彫刻「ピエタ」の構図を借りている。
2012.11.20@香港亞洲電影節(The One 百老匯)


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