王衛家御用達フィルム現像の女王、NGは無い

フィルム現像技師・呂麗樺。

先日の香港電影金像奨では、珍しい事に黒いサングラスをかけた王家衛(ウォン・カーワイ)監督が受賞したのではなく、プレゼンテーターをつとめた。人呼んで「呂姐」、ベテランのフィルム現像師・呂麗樺もまた、珍しい事にスクリーンの裏から表舞台に立って「専業精神奨」を王家衛から受けとった。彼女は王監督御用達のフィルム現像師で、1990年の《阿飛正傳》からのパートナーだ。「沢山のフィルム現像所があるのに彼は私の所がいいと言う」。彼女はこの仕事は退屈だという。当初彼女を惹きつけたのは、「スカートを穿かずに会社に行ける」という理由からだった。
「受賞すると知った時、王家衛監督が授与してくれたらいいと思った。彼の映画を担当することで私の知名度は上がったから」と50数歳の呂姐は言う。王監督は1本の映画にかける時間が長いことで知られている。《一代宗師》は準備に10年、《2046》を撮れば2046年までにできあがるかどうかと揶揄されるほどだ。この事に関して呂姐には語る資格があるだろう。「一般的な映画は撮影後のフィルムは5、60万フィートだが、王家衛監督は100万フィートはある。しかし彼は自分が何を撮っているのか分かっている。彼はとてもまじめな監督なんです」。
呂姐はこれまで一種類の仕事しかしたことがない。それはフィルム現像。得意とするのは色調整。来年には仕事を始めて40年になる。「最初の10年は研修生。毎朝会社に行き掃除。私たちの仕事は机の上に塵があってはならないのです。つまりフィルムにゴミがあってはならないからです。そうでなければ画面に白黒の点を作ってしまうからです」。
金像奨授賞式で王家衛は、「映画制作において、監督はNGを出せる、俳優もNGはある、カメラマンもNGはある、けれどフィルム現像はNGを出せない。現像のNGは心血を注いだすべてが烏有に帰してしまうからだ」と語った。現像がNGに成らないようにするため、呂姐は仕事を始める前に2時間かけて、機械、薬品を検査し、テストを行う。それを毎日行っている。仕事は退屈ではないのか。そうとはいえない。フィルムが陽の目を見る前、まず一度は現像される。100万フィートに達する王家衛のフィルムは、1万フィートの上映版の100倍以上になる。しかし呂姐は気にしない。なぜなら彼女はフィルムの長さに応じて料金を取るからだ。


現像処理で汚れた感じを作りだす
1本の映画には3000を超えるシーンがある。呂姐は監督の要求に応じて色を調節する。王家衛ロマン主義的雰囲気が彼女の手に金像奨を握らせたのだ。「彼にとても感謝している。いろいろな事を試させて貰った。彼は数ある監督の中でも現像効果についての要求がもっとも多かったのです。例えば《春光乍洩》、粗くて汚い感じが欲しいというので、何回も現像し、また薬品も調製して、粗い粒子の効果を作り上げたのです。これはとても大胆な試みでした。また《東邪西毒》では、黄砂の大地の感覚が欲しいというので、比較的きめの粗い画面が出来るように現像しました。さらに最後に彼女は、数十の映画館の映写機に合わせて微調整した版を作ったのです。
王家衛の《花様年華》《重慶森林》《2046》など、他の監督の《無間道》《黒社会》など著名な映画も呂姐の現像所で出来た作品だ。彼女の手を経た映画が何本あるのかその数ははっきりしない。しかしカテゴリー1だろうが3だろうが、彼女は真剣に処理する。「あなたたちは3級を見てるけど、私は4級を見てる。なぜなら私は上映前のフィルムも見ているから」。彼女は普段おばけ映画は大嫌い。しかし現像室でおばけ映画を現像している時は落ち着いている。「まったく怖くないのです。音がないから。私が見えるのはおばけの姿。ただ醜いと思うだけです」。
彼女は技術者であるばかりでなく、カラーコンサルタントでもある。「阿Lam(林超賢監督)は何か面白い事ができないかと聞く。たしか《線人》を撮っている時だったと思います。最後の場面、張家輝、霆鋒、桂綸[金美]が学校で戦うシーンは、濃い緑色を使って雰囲気を作り出しています。これは私の提案でした」。《一代宗師》のポスプロにも彼女はかかわっている。デジタル化がやってくる中、呂姐は半生を共にしたフィルムに分かれを告げなければならない。リタイアするとは言っていない彼女は、すでにデジタル技術をもものにしている。
彼女はかかわったどの映画も数十回は映画を見直している。記者は彼女は映画館で映画は見ないのではないかと思っていたが、実は彼女が映画オタクだった。映画館へ行くだけではない、家に帰ってからも見ている。「仕事の時はただ色や傷やよごれがないかを見ている。どんな映画か知らないわけにはいかないですよ」。
2013.5.14「爽報」