水造男人

《旺角黒夜》昨年のプレミア《旺角黒夜(ワンナイト・イン・モンコック)》の中で、方中信(アレックス・フォン)は、再び警察官を演じた。新鮮味がそれほどあると思えない状況の中で、多くの人に賞賛される水準の高い演技を見せた。何も繕わない暗い影は、じんわりとにじみ出て、観客に感染していき、観客は多くの可能性を秘めた方中信に気がついた。
「僕は悪をわざと演じたり、何かを隠したりはしていない。ただ少しばかりの暗い一面を、人に見られない部分に隠しもっているにすぎない。俳優をするうえで、僕がもっとも病みつきになっているのは、たとえ安心して演じられる状況でも、1人の違った人物になるには、違った冒険があるということだ。現実には自分がしないであろう事柄、心の中の影のようにもっとも暗い部分も、映画のキャラクターを通じて引っ張り出すことができる。俳優は水と同じだ。容器に入れればその容器なりに変わる。急須に入れれば茶になり、冷凍庫に入れれば氷になる。今回の出演は、貴重な経験になった。まだたくさんの部分は改善が必要で、まだ進歩することができると、爾冬陞(イー・トンシン)は僕に教えてくれた。彼は、僕の不必要な言葉や動作を削り、さらに彼のカメラを通すことによって、僕が本来持っていたごつごつした部分を取り除いた。自分でも映画の中の自分に驚いた。それはまったく思ってもみなかった感覚を持っていた」。by 2004.June「君子雑誌」

昨年の「君子雑誌」のインタビューから、《旺角黒夜》に触れている部分を抜粋してみた。前にも書いたと思うが、たくさんの方さんの映画を見た私には、この映画の方中信は衝撃だった。方さんの台詞まわしには、独特の緊張感があって、台詞を言うという気負いのようなものがただようことが多いのだが、この映画ではそれがほとんど感じられない。
映画が始まって比較的はじめの部分、警察に新人君(梁俊一)がやってくる場面がある。方さんの台詞は「得啦、阿嫂、自己人」(「分かってるよ姐さん、仲間だから」というような意味)。この短い一言に驚いた。すっと台詞は始まって終わる。ごく自然で、長い台詞の一部分を切り取ったように感じる。たぶん以前の方さんなら、どこかにインパクトがある台詞になるはずだが、まったくそれがなかった。このはじめの一言だけで、この映画の方さんは違うと感じた。そしてそれは最後まで裏切られなかった。
映画を見てすぐに手紙を書いた(この手紙は機会を逸して方さんには渡していないが)。何かに書き留めておかなくてはと思うほど、興奮してしまったのだった。
《旺角黒夜》のキーワードは「縁」と「孽」。映画の中に2度登場する台詞がこれ。

方中信「想刮到、刮唔到。唔想見到、撞到」
錢嘉樂「縁份呀、有縁、一定見到嘅」
方中信「有孽都得啫、係唔係呀」

この部分に友人と勝手に字幕をつけていた(汗)。

方「捜そうと思うと捜せない。会いたくないと思えば出会ってしまう」
錢「縁だよ。縁があれば必ず会えるんだ」
方「因縁ってこともある、そうだろう」