無用

《無用》賈樟柯ジャ・ジャンクー):監督


広東省で既製品の大量生産では得られない満足を得るためアトリエを構え「無用」というブランドを立ち上げ、パリに乗り込んで行く女性デザイナー。中国は大量の衣類を輸出しているが、独自のブランドはないと嘆く。彼女は手が創り出す質感と物の記憶(歴史と経験)にこだわり、土からちょうど洋服が発掘されたようなディスプレイしたり、コレクションの発表ではモデルの顔を黒く塗り、ライトに照らされたモデルたちはまるで発掘された俑のよう。


その彼女が山西省へやってくる。ここから俄然、賈樟柯らしくなる。
村の仕立て屋にはほつれを直してくれといってくる人、暇を持て余しているような仕立て屋の女性、裾上げを頼みに来る人、元仕立て屋で今は炭鉱で働く男とその妻。洋服仕立てに携わる人が映し出されていくが、ここでは先の広東省の話しと服の価値がまったく異なっている。
そして炭鉱労働者たちが映る。仕事を終えシャワーを浴びる労働者の顔は煤けて黒い。彼らが脱ぎ捨てた服も黒く汚れている。ここで先の女性デザイナーのパリの展覧会のことが頭をよぎる。片方はわざと顔を黒く塗り、片方は黒い顔を洗っている。片方は服に歴史が欲しいとわざと皺をつけ、煤けたような色を付ける。片方はいやがおうでも服が煤けてゆき、服に歴史が刻まれて行く。「無用」なんという皮肉なブランド名だろう。まさにデザインは「無用」なのだ。
今日は観客が10人はいた(笑)。
2008.10.7@The Grand Cinema


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